英語リスニングが伸びない8つの原因|どこで止まっているかを診断する

記事の執筆者 メイソン(株式会社The Past 代表 / 椿祐輔)

VERSANT満点(90点)、CEFR C2レベルの英語力を有する。フィリピンの語学学校で10年以上にわたりカリキュラムと教材開発に従事し、述べ5,000人以上の多国籍な英語学習者(日本、中国、台湾、ベトナム、ロシア等)の学習をサポート。言語学と音声学に精通しており、現在は株式会社The Pastの代表取締役、カリキュラム開発者として、グローバルな英語教育を推進している。

「リスニング教材を毎日聞いているのに伸びない」「単語は知っているのに、ネイティブの英語が聞き取れない」——そう感じている方は少なくありません。

リスニングが伸びない原因は努力量ではなく、伸びない構造にあります。リスニングは「音声知覚」「意味理解」「情報保持」という3つの工程で成り立っていて、どこか1つに穴があるだけで全体が止まります。原因を特定せずに教材時間だけ増やしても、止まっている工程は止まったままです。

ここで重要なのは、原因は8つあり、人によって当たっている場所が違うということです。同じ「伸びない」でも、語彙が足りていない人と、語彙は足りているのに音が取れない人では、やるべきことが正反対になります。

本記事ではまず、あなたがどの原因で止まっているかを特定します。そのうえで、原因ごとの突破口を The Past の指導現場で実際に効果が出ている方法で示します。

まず、自分がどこで止まっているかを特定する

原因を8つ並べる前に、自分がどれに当たっているかを先に判定してください。原因を読んでから「たぶん自分はこれだろう」と当てにいくと、ほぼ全員が「原因2の音声変化」を選びます。実際にはもっと手前で止まっている人が多くいます。

判定方法はシンプルです。聞き取れなかった音声のスクリプト(英文)を用意し、上から順に、最初に当てはまるものを探してください。

# 当てはまるもの 止まっている場所
1 スクリプトを黙読しても意味が分からない 原因1(語彙・文法)
2 黙読なら分かるが、聞くと分からない 原因2・3(音声知覚)
3 音は拾えるが、意味が追いつかない 原因4・5(意味理解)
4 意味は取れるが、文末で最初を忘れる 原因6(情報保持)
5 どれでもなく、練習量・練習法に心当たりがある 原因7・8(設計)

この5行で、8つの原因は5つの層に振り分けられます。黙読して分からない英文は、何百回聞いても聞き取れるようになりません。 ここを飛ばして音声変化の勉強を始めるのが、最も多い遠回りです。

リスニングの3ステップ(音声知覚・意味理解・情報保持)

原因1|語彙・文法そのものが足りていない

最初に確認すべきはここです。スクリプトを目で読んで意味が取れない英文は、リスニングの問題ではありません。

リスニングは「知っている英語を、音から取り出す」作業です。そもそも知識として持っていないものは、取り出しようがありません。TOEIC 500〜600点台で「リスニングが伸びない」と感じている方の多くは、実際には語彙と文法の総量が不足しています。

見分け方は上の診断のとおりです。スクリプトを黙読して8割以上理解できないなら、いま必要なのはリスニング練習ではなく語彙・文法の補充です。

突破口は、音声つきで語彙を入れ直すことです。単語帳を「文字だけ」でこなすと、この後の原因2をそのまま作り込むことになります。覚え方の手順は英単語の覚え方|「1秒で意味が出る」まで運ぶ The Past式 完全版に、まとまった意味のかたまりで入れる方法はビジネス英語の単語は「数」より「チャンク」に整理しています。

原因2|音声変化を知らないまま聞き続けている

黙読すれば分かるのに聞き取れない——この層で最も多いのが、音声変化を把握しないまま聞き続けているケースです。

英語のネイティブ発音では、単語が辞書通りに発音されることはほぼありません。語末の子音と語頭の母音がつながる(連結:not at all →「ノラロー」)、本来あるはずの音が消える(脱落:get started →「ゲッスターテッ」)、機能語が弱く短くなる(弱形:to → /tə/)、t/d がラ行に近い音に変わる(ラ行化:water →「ウォーラー」)。

これらを知らずに聞いても、脳は「自分の知っている単語の音」を待ち続けて反応できません。文字としては中学レベルの単語でも、音として認識できないため、まったく違う言語に聞こえます。

突破口は、音声変化を知識として整理してから素材に当たることです。「なぜそう聞こえるのか」がわかった瞬間に、同じ素材が初めて聞き取れます。5種類の変化の全体像は英語の音声変化5種完全ガイド|連結・脱落・同化・弱形・ラ行化を聞き取るにまとめています。

原因3|「単語を知っている」と「音を知っている」を混同している

学校英語の影響で、多くの学習者は「単語を覚える=文字とその意味を覚える」と理解しています。これでは音とのリンクが作られません。

The Past の指導現場で、TOEIC 800点以上の学習者でも「water を文字で見ればわかるが、ネイティブが発音する音では一瞬わからない」というケースを繰り返し観察してきました。文字と音は別物として、両方を記憶に登録する必要があります。

突破口は、単語を覚えるときに必ず音声と一緒に取り込むことです。発音記号と音声を併走させ、自分でも発声する。正しく発音できる音は、聞き取れます。発音とリスニングは表裏一体の能力で、片方を伸ばせばもう片方も伸びます。自分の発音の癖(カタカナ英語)を直す具体的な手順はカタカナ英語の直し方|通じない3つの癖を、直す順番で解決するで解説しています。

原因4|日本語に訳しながら聞いている

聞こえた英語を頭の中で日本語に置き換えてから理解する——この処理を挟んでいる限り、リスニングは頭打ちになります。

理由はシンプルです。音声は待ってくれないからです。1文を訳している間に次の2文が流れ、その2文を取りこぼす。取りこぼしを埋めようとしてさらに遅れる。「訳す」という工程そのものが、リスニングを破綻させます。

読解でこの癖がついている方は特に注意が必要です。読解なら戻って読み直せるので、訳す癖があっても点は取れます。リスニングでは戻れません。読解では表面化しない弱点が、音声で一気に露出します。

突破口は、英語の語順のまま意味のかたまりで処理する練習に切り替えることです。文を後ろから組み立て直さず、聞こえた順に処理する。この処理はリーディングで先に作れます。手順はチャンクリーディングとは|意味のかたまりで読む力の鍛え方に整理しています。

原因5|意味理解の負荷で、音処理がおろそかになっている

リスニングは「音を取る」と「意味を取る」を同時に行う作業です。ところが、認知資源には上限があるため、片方に負荷がかかると、もう片方が落ちます。

知らない単語が多い素材を選ぶと、意味理解に脳のリソースが食われて、音処理に回らなくなります。結果として「音は聞こえているのに意味が取れない」、もしくは「意味を追っているうちに次の音が抜ける」状態が起きます。

突破口は、理解率80%以上の素材を選ぶことです。10語のうちわからない単語は2語以下。これより難しい素材は、音処理の自動化を妨げます。「少し簡単すぎるかな」と感じるくらいから始めるのが、結果的に最短ルートです。

なお、字幕は「音処理の負荷を一時的に下げる道具」として使えます。ただし使い方を誤ると、音を聞かずに文字を読むだけの時間になります。使い分けは英語リスニングと字幕の使い方|音声知覚と意味理解を分けて使うにまとめています。

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原因6|情報保持ができていない(ワーキングメモリの壁)

聞き取った瞬間は理解できても、文末まで来たときに最初の方を忘れてしまう——これも非常に多いパターンです。

人間の短期記憶(ワーキングメモリ)には容量の上限があります。認知心理学では、成人が同時に保持できる情報の単位はおよそ4±1個とされています(Cowan, 2001)。長文や複数センテンスのリスニングで「結局なんの話だったか思い出せない」という感覚は、能力の問題ではなく記憶の構造的な限界です。

突破口は、3つあります。

  • チャンク化:単語ではなく意味のかたまりで覚える。「the United States of America」を「the United States」+「of America」のように分割して記憶する
  • ノートテイキング:要点だけでもメモを取る。書く動作が記憶と注意を維持する
  • イメージ化・要約:聞いた内容を頭の中で図や映像に変換し、自分の言葉で要約する

ワーキングメモリの容量そのものは鍛えられませんが、1単位あたりの情報密度を上げることはできます。4単位という上限が変わらないなら、1単位に入る情報を大きくする。これが伸びる学習者と伸びない学習者の差です。この層の鍛え方は英語が聞けても覚えられない|リスニングの情報保持を鍛える方法で詳しく扱っています。

原因7|素材のレベルが合っていない/毎回素材を変えている

「ネイティブの会話を聞き流せば耳が慣れる」という説を信じて、CEFR B1未満の段階で本格的なポッドキャストやニュースを浴び続けるケースがあります。これは効果がほぼ出ません。

理解できない英語をどれだけ聞いても、脳は処理を諦めて「音の壁紙」として処理します。記憶にも残らず、自動化も起きません。「理解できる英語を聞く」が前提であり、ここを外すとどんなに時間をかけても伸びません。聞き流しが効く条件と効かない理由は英語の聞き流しは効果ある?意味ない?で整理しています。

もう1つ、素材のレベル以上に見落とされているのが回し方です。毎日新しい素材に変えるのは最も非効率で、そのたびに語彙確認からやり直すことになります。

突破口は、レベルに合った素材を3〜5日繰り返し使うことです。同じ素材を繰り返して音処理を自動化してから次へ進む——この設計が、音の回路を確実に育てます。

原因8|学習の絶対量が足りていない

ここまでの7つを潰しても伸びない場合、残る原因は量です。

日本で生活していると、英語音声に触れる時間は意識して確保しないとゼロになります。週に2〜3時間、1日20分程度の学習で「伸びない」と感じているなら、それは方法の問題ではなく単純に量の問題です。音声知覚の自動化は、正しい方法であっても時間の関数です。

ただし、量を増やす前に順序があります。原因1〜7を放置したまま量だけ増やすと、間違った処理を固めることになります。 訳しながら聞く癖がある状態で聞く時間を3倍にすれば、訳す癖が3倍強化されます。量は最後に足す変数です。

伸びない人がやりがちな選択:シャドーイングを主軸に据える

「伸びないからシャドーイングを始めた」という方は多くいます。ただ、初中級者がシャドーイングを主軸に据えると、伸びが止まりやすくなります。

理由は認知負荷です。シャドーイングは、聞く・保持する・発話するを同時に走らせる訓練で、もともとは同時通訳者の養成法です。CEFR B2未満の段階では処理が飽和し、音に注意を向ける余力が残りません。声は出せているのに音は取れていない、という状態が生まれます。

さらに、独学では誤った発音のまま固まる(化石化する)リスクがあります。発声を続けることで「できている感覚」だけが育ち、実際の聞き取りは変わらない。これが「シャドーイングを毎日やっているのに伸びない」の中身です。

The Past が初中級者に推奨するのは、工程を分けて鍛える方法です。

  • ディクテーション:聞こえた音を書き取り、どこが取れていないかを可視化する(やり方はこちら
  • オーバーラッピング:スクリプトを見ながら音声に重ねて読む。文字を見てよいぶん、音に注意を向けられる
  • Listen & Repeat:1チャンク聞いて止め、正確に反復する。保持と発話を分離できる

シャドーイングを全否定はしません。音声知覚のボトムアップ処理には効く面があり、上級者の補助としては機能します。位置づけの根拠はシャドーイングは意味ない?シャドーイングに効果ない理由と推奨する学習方法に、オーバーラッピングとの使い分けはシャドーイングとオーバーラッピングの違いにまとめています。

構造で考えれば、伸ばす場所が見える

リスニングが伸びない8つの原因を5つの層で整理した図

8つの原因は、リスニング3ステップ(音声知覚/意味理解/情報保持)に、その手前の前提と、工程の外側にある設計を足した5つの層で整理できます。

  • 前提が足りていない:原因1(語彙・文法)
  • 音声知覚でつまずいている:原因2(音声変化)・原因3(文字と音の乖離)
  • 意味理解でつまずいている:原因4(訳す癖)・原因5(負荷オーバー)
  • 情報保持でつまずいている:原因6(記憶の限界)
  • 設計でつまずいている:原因7(素材)・原因8(量)

「リスニングを伸ばす」というぼんやりした目標ではなく、自分がどこで止まっているかを特定すること。これが伸ばすための出発点です。

特定できたら、次は鍛える順序です。3ステップそれぞれの訓練メニューと進め方は英語リスニングの勉強法|3ステップで「自分の弱点」から鍛える設計図に設計してあります。英語のリズム(強弱とタイミング)を音声付きで練習したい方はネイティブの英語を聞きとる、英語リズムの習得のコツを、洋楽を教材にする方法は洋楽を使ったリスニングとスピーキングを高める学習方法をあわせてご覧ください。

TOEICのスコアを上げる目的で聞いている場合は、形式への慣れと聞く力を分けて設計したほうが速く進みます。Part別の対処と3層別の訓練はTOEICリスニングの勉強法|「形式テク」と「聞く力」を分けてPart3・4の頭打ちを抜くにまとめています。

よくある質問

Q. 毎日どのくらい聞けば伸びますか。
まず1日30分を90日続けられる設計にしてください。ただし原因1〜7を放置したままの30分は、量ではなく癖の強化になります。順序は「原因の特定 → 方法の修正 → 量の確保」です。

Q. 半年やっても変化がありません。方法が間違っているのでしょうか。
方法か素材のどちらかです。本記事冒頭の診断を、実際にスクリプトを手元に置いて実行してください。黙読で8割理解できない素材を使っていた場合、それは方法ではなく素材の選択が原因です。

Q. TOEICのリスニングは伸びたのに、実際の会話が聞き取れません。
TOEICの音声はスタジオ収録で、音声変化が実際の会話より穏やかです。原因2の層が残ったままスコアだけ上がる状態は起こります。素材を会話音声に替えて、同じ診断をやり直してください。

Q. 聞き流しは意味がありませんか。
既に理解できる素材を繰り返す用途では機能します。理解できない素材を流す使い方は、音の壁紙になるだけで効果がありません。条件はこちらに整理しています。

Q. どの原因から手をつければいいですか。
番号順です。原因1が残っている状態で原因2以降に進んでも、効果が出ません。上の層から順に潰してください。

まとめ

リスニングが伸びない原因は、努力量や才能ではなく、8つのうちどれかで構造的なボトルネックが起きていることです。

語彙・文法が足りない、音声変化を知らない、文字と音が結びついていない、日本語に訳しながら聞いている、難しすぎる素材で負荷オーバー、ワーキングメモリの限界を超えている、素材のレベルと回し方が合っていない、学習の絶対量が足りない——この8つを上から順に点検すれば、伸ばすべき場所は明確になります。

毎日の聞き流しを続ける前に、まず自分がどの段階で止まっているかを特定してください。原因がわかれば、解決策は半分見えています。

リスニングが伸びないのは、聞く量ではなく、音を処理する工程のどこかが止まっているからです。原因は努力不足ではなく学習法です。The Past の無料eBook『シャドーイングを今すぐ捨てよ』(LINE登録)では、聞き取れない本当の理由と、脳の仕組みに合う学習法を解説します。