英語が聞けても覚えられない|リスニングの情報保持を鍛える方法

記事の執筆者 メイソン(株式会社The Past 代表 / 椿祐輔)

VERSANT満点(90点)、CEFR C2レベルの英語力を有する。フィリピンの語学学校で10年以上にわたりカリキュラムと教材開発に従事し、述べ5,000人以上の多国籍な英語学習者(日本、中国、台湾、ベトナム、ロシア等)の学習をサポート。言語学と音声学に精通しており、現在は株式会社The Pastの代表取締役、カリキュラム開発者として、グローバルな英語教育を推進している。

英語会議で、相手の発言を聞いている間は追えている。単語も拾えているし、意味も分かっている。それなのに、発言が終わった瞬間、内容を再現できない。議事メモを取ろうとペンを持った時には、詳細が頭から消えている。TOEICのPart 3・4でも同じことが起きます。音声は聞き取れているのに、設問にたどり着く頃には「何の話だったか」が残っていない。

まず、この記事の答えを先に言います。「聞けているのに覚えていない」のは、記憶力の欠陥ではありません。リスニングを構成する能力のうち、「情報保持」という第3層だけが未訓練なだけです。 そしてこの能力は、聞き取りの練習とは別のやり方で鍛えられます。

The PASTでは、リスニングを「音声知覚(音を捉える)→ 意味理解(内容に変換する)→ 情報保持(覚えておく)」の3ステップで捉えます。あなたの場合、第1層と第2層はすでにある程度通っています。だから「聞いている間は分かる」のです。問題は第3層。ここだけが細いから、「分かったのに残らない」が起きます。

この記事では、なぜ英語だと覚えられないのかをワーキングメモリの構造から説明し、情報保持を鍛える3つの訓練(チャンク化・リピーティング・要約)を、記事内の約8分のトレーニングつきで提示します。

なお、この記事は「音は聞き取れるのに残らない」人のための記事です。そもそも音が聞き取れない・意味が追えない段階の方は、原因の切り分けから始めるのが先です。英語リスニングが伸びない5つの原因で自分のつまずきの層を特定してください。

目次

結論 ― 容量は増やせない。「実効的に持てる量」を増やす

最初に結論を述べます。情報保持を伸ばす方向は、「記憶力を鍛えて容量を増やす」ことではありません。ワーキングメモリ(短期記憶)の容量そのものを増やすのは難しい、と考えるのが安全です。研究では、人が一度に保持できる情報のかたまり(チャンク)は約4個(3〜5個)に収束するとされています(Cowan 2001)。この上限は、あなたの努力不足でも才能の欠如でもなく、人間の仕様です。

では何を変えるのか。変えられるのは次の3つです。

  1. 下位処理を自動化して、保持に回す資源を空ける ― 音の識別と意味の変換が速くなるほど、「覚えておく」ことに頭を使える
  2. チャンク化で、1単位の情報密度を上げる ― 約4個の枠に「単語」ではなく「意味のかたまり」を入れる
  3. 保持を直接使う練習で、運用を鍛える ― 聞いて止めて再生する(リピーティング)、聞き終えて要約する

逆に言えば、「とにかくたくさん聞く」は、この3つのどれでもありません。だから、多聴を何ヶ月続けても「覚えられない」問題は解決しないのです。量ではなく、保持そのものを使う練習が必要になります。

「変えられるのは3つだけ」の3ステップ図解。01下位処理の自動化「音の識別と意味の変換を速くし、保持に回す資源を空ける」、02チャンク化「約4個の枠に意味のかたまりを入れ、情報密度を上げる」、03保持を直接使う練習「聞いて止めて再生する、聞き終えて要約する」、下部に「とにかく聞くは、このどれでもない」

なぜ英語だと覚えられないのか ― 情報保持の構造

なぜ日本語なら困らないのに、英語だと内容が消えるのか。ここを構造で説明します。この構造が腹に落ちると、後半の訓練が「なぜ効くのか」まで含めて理解できます。

リスニングの第3層「情報保持」とは何か

リスニングは、ひとつの曖昧な能力ではありません。The PASTでは次の3層に分解します。

  • 音声知覚 … 英語の音を正確に捉える(聞こえた音を母音・子音として認識する)
  • 意味理解 … 捉えた音を、語彙・文法・文脈をもとに「何を言っているか」に変換する
  • 情報保持 … 理解した内容を、必要なときまで覚えておく

重要なのは、この3つが別々の能力だという点です。第1層・第2層が通っていても、第3層が細ければ「聞いている間は分かるのに、終わると残っていない」が起きます。逆に言えば、あなたに必要なのは聞き取りの練習ではなく、第3層に的を絞った練習です。3層全体をどう鍛えるかという設計図は、英語リスニングの勉強法で詳しく解説しています。本記事はその第3層だけを深掘りします。

ワーキングメモリは「約4チャンク」しか持てない

情報保持を支えているのは、ワーキングメモリと呼ばれる短期的な記憶の仕組みです。そしてこの容量には、はっきりした上限があります。

かつては「7±2個」という目安(Miller 1956)が知られていましたが、リハーサルや長期記憶の補助を統制した再検討では、若年成人が同時に保持できるかたまりは約4個(3〜5個)に収束するとされています(Cowan 2001)。

ここで重要なのは、単位が「単語数」ではなく「チャンク数」だという点です。チャンクとは、意味のあるひとまとまりのこと。日本語で考えると分かりやすいはずです。「090-1234-5678」という電話番号を、私たちは11個の数字としてではなく、「090」「1234」「5678」という3つのかたまりで覚えます。数字11個は枠から溢れますが、かたまり3つなら収まる。同じ容量でも、1チャンクの中身が濃ければ、持てる情報量は変わるのです。

日本語のリスニングで困らないのは、容量が大きいからではありません。チャンクの密度が高く、処理が自動化されているからです。

英語では「処理」が「保持」の資源を食いつぶす

もうひとつの要因が、認知資源の配分です。頭の処理能力は有限で、音の識別・意味の変換・内容の保持は、この限られた資源を奪い合います。

母語では、音の識別も意味の変換もほぼ自動化されているため、資源のほとんどを「覚えておく」ことに回せます。ところが英語では、下位の処理に資源を消費します。音を追い、単語を認識し、意味に変換する。この作業で頭がいっぱいになり、保持に回す分が残らない。「聞いている間は分かる」のは処理ができている証拠ですが、その処理に資源を使い切っているから、「終わると残っていない」のです。

さらに、英語を単語単位で聞いてしまうと、約4個の枠が「単語4つ」で埋まります。”We need to reschedule tomorrow’s meeting” を単語で持とうとすれば、文の途中で枠が溢れる。これが、長い文になると前半から消えていく理由です。

なお、聞いた音声を頭の中で短時間響かせて保持する仕組みは「音韻ループ」と呼ばれ、Baddeleyらのワーキングメモリ研究では言語学習を支える装置として論じられています(Baddeley, Gathercole & Papagno 1998)。後述するリピーティングは、この回路を直接使う訓練です。

ここまでを整理すると、「英語だと覚えられない」は次の2つの掛け算で説明できます。①下位処理に資源を食われ、保持に回らない。②単語単位で聞くため、1チャンクの密度が薄く、枠がすぐ溢れる。 記憶力の問題ではなく、資源配分と保持単位の問題です。

「覚えられないは2つの掛け算で起きる」の左右比較図解。左は「下位処理が資源を食う(音を追い、単語を認識し、意味に変換する作業で頭がいっぱいになる)」、右は「単語単位で持とうとする(約4個の枠が単語4つで埋まり、長い文の前半から消える)」、下部に「記憶力の問題ではなく、資源配分と保持単位の問題」

情報保持を鍛えたい人がやりがちな3つの失敗

構造が分かると、よくある対策のどこがずれているかも見えてきます。3つの典型的な失敗を、「なぜ効かないか」とセットで解剖します。

① とにかく量を聞く(多聴・聞き流し)

「慣れれば覚えられるようになる」と考えて、聞く量を増やす。これが最も多い失敗です。

なぜ効かないか。受け身で聞き流している状態では、保持という動作そのものを使っていないからです。内容を覚えておこうとする負荷がかからない聞き方を何時間積んでも、第3層は鍛えられません。筋肉と同じで、使わない能力は太くならないのです。多聴が無意味なわけではありませんが、それは音声知覚の慣れに効く練習であって、保持の練習ではありません。

本当に必要なのは、「聞いた内容を、その場で再生する・使う」という負荷がかかった練習です。

② 一語一句すべて覚えようとする

真面目な学習者ほど、聞いた英文を全部覚えようとします。あるいは会議で、聞こえた単語を片っ端からメモしようとします。

なぜ効かないか。前章で見たとおり、保持の枠は約4個しかありません。単語単位・全文保持という方針は、この枠の使い方として最も効率が悪いのです。4枠を最初の4語で使い切り、5語目からは何かを捨てることになります。全部を持とうとするから、全部落とすのです。

本当に必要なのは、全部覚えることではなく、意味のかたまりに圧縮して要点を持つことです。なお、一語一句を書き取るディクテーションは音声知覚を鍛える優れた訓練ですが、目的が違います。「音を特定する練習」と「内容を保持する練習」を混同しないことです(ディクテーションの正しい使い方は英語ディクテーションのやり方で解説しています)。

③ シャドーイングで解決しようとする

「リスニング力を上げるならシャドーイング」という発想で、聞こえた音声に少し遅れて声を重ねる練習を積む。上位の対策記事にも、この結論のものが目立ちます。

なぜ効かないか。シャドーイングは、流れてくる音に追従して発声し続ける練習です。認知資源は発声への追従に取られ、「聞いた内容を保持して、後で使う」という動作をどこにも含みません。音の識別(ボトムアップ処理)への効果は示唆されていますが、それは第1層の話であって、第3層の訓練にはなっていないのです。覚えられない人がシャドーイングを積むのは、的の外れた努力です。

シャドーイング自体を全否定するわけではありません。ただしThe PASTは、そもそも初中級者の主軸トレーニングとしてシャドーイングを推奨していません。負荷の構造と研究的根拠はシャドーイングは意味ない?で詳しく説明しています。

The PAST式 ― 情報保持を鍛える3つの訓練

ここからが本題です。結論で挙げた3つの経路(資源を空ける・密度を上げる・運用を鍛える)を、具体的な訓練に落とします。

訓練1 チャンク化 ― 意味のまとまりで持つ

効く経路: ②1チャンクの情報密度を上げる。

保持の単位を、単語から「意味のかたまり」に変える訓練です。たとえば “the United States of America” は、5つの単語ではなく「the United States / of America」の2チャンク、慣れれば1チャンクで持てます。

やり方はシンプルです。

  1. スクリプトのある音声を用意し、まず文字の上で「/」を入れて意味の切れ目を確認する(例: We need to reschedule / tomorrow’s meeting / because of the client’s schedule.)
  2. 音声を聞きながら、その切れ目を意識して「かたまりごと」に意味を取る
  3. 慣れてきたら、スクリプトなしで聞きながら頭の中で「/」を打つ

単語を追う聞き方から、かたまりで受け取る聞き方へ。これが、約4個の枠に文全体を収めるための土台です。

訓練2 リピーティング(Listen & Repeat)― 保持の筋肉を直接使う

効く経路: ③保持の運用を直接鍛える(+続けるほど①自動化にも効く)。

1チャンク(慣れたら1文)聞いたら音声を止め、何も見ずに、聞いたままを正確に声に出して再生する訓練です。The PASTが情報保持の中核に置く練習で、音韻ループ――聞いた音を頭の中で短時間保持する回路――をそのまま使います。

  1. 音声を1チャンク分だけ再生して、止める
  2. 何も見ずに、そのチャンクを正確に口に出して再生する
  3. 言えなければ、そこだけもう一度聞いて再挑戦する
  4. チャンク単位で言えるようになったら、1文単位に伸ばす

ポイントは「止めてから言う」ことです。音声に重ねて言うシャドーイングとは、ここが決定的に違います。止める瞬間に「覚えておかなければならない」負荷が生まれ、その負荷こそが保持の訓練になります。再生できたかどうかで、保持の成否がその場で判定できるのも利点です。

訓練3 要約・ノートテイキング ― 自分の言葉に再符号化する

効く経路: ③保持の運用を鍛える(聞き終えた後の定着)。

聞き終えた直後に、内容を1〜2文で要約して口に出す。あるいは、要点だけを最小限にメモする訓練です。聞いた情報を自分の言葉やイメージに変換し直す(再符号化する)ことで、消えやすい聞きっぱなしの情報が整理されて残ります。

  1. 30秒〜1分程度の音声を、メモを取らずに聞く
  2. 聞き終えた直後に、「誰が・何を・いつ/どこ」を軸に1〜2文で要約する
  3. メモを併用する場合は、文で書かない。数字・記号・単語の頭だけ(例: 「明日 10:00 RmB 資料+提案書×10」)

注意点はひとつ。全部書こうとしないことです。全文メモは失敗②に逆戻りします。書くのは要点だけ、保持はチャンクで、が原則です。

「情報保持を鍛える3つの訓練」の3ステップ図解。01チャンク化「意味のまとまりで持つ。単語ではなくかたまりで受け取る」(例:I think that / we should focus / on long-term growth.)、02リピーティング(Listen & Repeat)「1チャンク聞いたら止めて、何も見ずに正確に再生する」、03要約・ノートテイキング「聞き終えた直後に1〜2文で要約し、自分の言葉に再符号化する」、下部に「止める瞬間の負荷が、保持の訓練になる」

記事内トレーニング ― 「何チャンク持てるか」を体験する(約8分)

ここまでの理論を、実際の音声で体験します。題材は、ビジネスで毎日起きる場面――会議変更を伝えるボイスメッセージ(約65語)です。開始時刻・場所・持ち物・終了時刻という「保持すべき詳細」が詰まっています。各Practiceの冒頭に、いまどの能力を鍛えているかを1行で示します。

Practice 1:まず聞いて、何が残ったか測る(約2分)

鍛える能力:情報保持の現在地測定 ― 聞いた内容がどれだけ頭に残っているか。

下のスクリプトと日本語訳はまだ見ないでください。音声を1回だけ通しで聞きます(聞き直しなし)。聞き終わった直後に、覚えている内容を日本語で口に出して再現してください。

そのうえで、「①開始時刻 ②場所 ③持ち物2つ ④終了時刻」の5つの詳細のうち、いくつ再現できたかを数えます。ここで測っているのは「聞き取れたか」ではなく「覚えていたか」です。数が少なくても問題ありません。それが現在地です。

Practice 2:チャンクで持つ(約2.5分)

鍛える能力:情報保持 ― 単語単位ではなく、意味のまとまり(チャンク)単位で保持する。

まず、下のチャンク区切りを確認してください。

【English(チャンク区切り)】 Hi, / this is Ken / from the sales team. Quick update / about tomorrow’s client meeting. It starts at ten, / not nine thirty, and we’ve moved it / to Meeting Room B / on the third floor. Could you bring / the latest sales report and ten copies / of the proposal? The client wants to finish / by eleven, so let’s keep the agenda short. / Thanks.

【日本語訳】 もしもし、営業チームのケンです。明日のクライアント会議について手短に連絡します。開始は9時半ではなく10時になり、場所は3階の会議室Bに変更になりました。最新の営業レポートと、提案書のコピーを10部持ってきてもらえますか?クライアントは11時までに終えたいそうなので、議題は絞っていきましょう。よろしくお願いします。

上のリピート用音声では、1チャンク流れるたびにポーズ(無音)が入ります。1チャンク聞いたら、ポーズの間に何も見ずにそのチャンクを正確に声に出して再生してください。言えなかったチャンクは、そこだけ聞き直してもう一度。音声に重ねて同時に発声はしません。必ず「聞く→止める→言う」の順で行います。

Practice 3:保持した内容を使う(約2分)

鍛える能力:情報保持の運用 ― 保持した詳細を、必要な瞬間に取り出して使う。

もう一度 Practice 1 の音声を通しで聞いてから(今度はチャンクを意識して)、下の質問に進んでください。矢印の先のモデル解答は手で隠したまま、1問ずつ読んで5秒以内に英語で即答します。言い終えてからモデル解答と照合してください。短い答えで構いません。

【質問とモデル解答】 Q1: What time does the meeting start? → It starts at ten. Q2: Where will the meeting be held? → In Meeting Room B, on the third floor. Q3: What should you bring? → The latest sales report and ten copies of the proposal. Q4: What time does the client want to finish? → By eleven.

「覚えておく」ことの実務上のゴールは、暗唱ではなく利用です。会議で返答する、メモに起こす、行動に移す。質問への即答は、その出口を作る練習です。

Practice 4:要約で締める(約1.5分)

鍛える能力:情報保持の定着 ― 聞いた内容を自分の言葉に変換して保持を強化する。

最後に、音声もスクリプトも見ずに、この伝言の内容を1〜2文で要約して口に出してください。日本語でも英語でも構いません(例: 「明日の会議は10時開始・3階会議室Bに変更。レポートと提案書10部を持参、11時まで」)。

言い終えたらスクリプトと照合し、落ちた詳細を確認します。そして、Practice 1 で数えた再現数と比べてください。増えていれば、それはあなたの記憶力が数分で向上したからではありません。チャンクで持ち、反復し、使ったからです。情報保持は、才能ではなく持ち方の問題である――この実感が、この記事で一番持ち帰ってほしいものです。

実践例 ― 会議・電話・試験で「保持」が効く場面

鍛えた保持は、実務のどこで効くのか。テクニックではなく、能力の運用として見ていきます。

英語会議 ― 発言を保持できると、返答とメモが変わる

会議で聞き返しが多い人は、聞き取れていないのではなく、返答を考え始めた瞬間に相手の発言を手放していることが多いのです。相手の発言をチャンクで保持できるようになると、要点を頭に置いたまま返答を組み立てられます。メモも変わります。発言を保持しているから、聞き終えた後に要点だけを最小メモに落とせる。「聞きながら全部書く」必要がなくなります。

電話・音声メッセージ ― 詳細の抜けを止める

時刻・場所・数量・金額。ビジネスで落とすと痛いのは、こうした詳細情報です。詳細は「ten copies」「by eleven」のように数字+単位のチャンクで持つこと。そして聞き終えた直後に1文で要約する習慣をつけること。トレーニングでやった Practice 4 を、実際の電話の後に毎回行うだけで、抜けは目に見えて減ります。

TOEIC・IELTSのリスニング後半 ― 設問に着くまで内容を運ぶ

TOEIC Part 3・4 や IELTS の後半セクションで崩れるのは、多くの場合、音が拾えないからではなく、聞いた内容が設問に届く前に消えるからです。つまり保持の問題です。本記事の3訓練はそのまま試験対策の土台になりますが、設問の先読みなど試験形式に固有の戦略は別記事で扱います(TOEICはTOEICリスニングの勉強法、IELTSはIELTSリスニングの対策|先読みと情報保持でPart3・4の失点を止めるを参照してください)。

まとめ ― 「記憶力がない」から「保持を鍛えていなかった」へ

最後に、この記事で何が変わったかを整理します。

読む前のあなたは、「聞けているのに覚えていない」を記憶力の問題だと考えていたはずです。読んだあとのあなたは、それがリスニング第3層「情報保持」の未訓練であり、聞き取りの練習とは別の練習が必要だと知っています。

構造も手に入れました。ワーキングメモリの枠は約4個(3〜5個)で、容量そのものを増やすのは難しい。しかし、①下位処理の自動化で保持に資源を空け、②チャンク化で1個あたりの密度を上げ、③リピーティングと要約で保持の運用を鍛えれば、実効的に持てる量は増やせる。だから「とにかく聞く」でも「全部覚える」でも「シャドーイング」でもなく、チャンク化・リピーティング・要約なのです。

そして記事内トレーニングで、Practice 1 と Practice 4 の差分を体験しました。保持は、持ち方を変えれば数分でも変わる。あとは、この3訓練を日々のリスニング学習に組み込むだけです。

ただし、ひとつだけ独学で越えにくい難所が残ります。あなたの「覚えられない」が本当に第3層の問題なのか、それとも音声知覚・意味理解が資源を食いつぶしているのか――この切り分けです。

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ここまで読んで、「自分の場合はどの層に原因があるのか、もっと正確に知りたい」と感じた方もいるはずです。

実際、保持の崩れと下位処理の崩れは同時に起きることが多く、「覚えられないのか、そもそも処理が追いついていないのか」を自分の耳だけで切り分けるのは難しいものです。ここを誤ると、保持が細い人が聞き流しを続け、処理が重い人がリピーティングだけを積む、というちぐはぐな努力が起きます。伸びないのは努力不足ではなく、診断不足であることがほとんどです。

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参考文献 – Cowan, N. (2001). The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity. Behavioral and Brain Sciences, 24(1), 87–114. – Miller, G. A. (1956). The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information. Psychological Review, 63(2), 81–97. – Baddeley, A., Gathercole, S., & Papagno, C. (1998). The phonological loop as a language learning device. Psychological Review, 105(1), 158–173. – The PAST メソッド・基本リファレンス「リスニングの3ステップ(音声知覚/意味理解/情報保持)」