単語は知っているのに聞き取れない理由|意味を知ることと音を掴むことは別能力

記事の執筆者 メイソン(株式会社The Past 代表 / 椿祐輔)

VERSANT満点(90点)、CEFR C2レベルの英語力を有する。フィリピンの語学学校で10年以上にわたりカリキュラムと教材開発に従事し、述べ5,000人以上の多国籍な英語学習者(日本、中国、台湾、ベトナム、ロシア等)の学習をサポート。言語学と音声学に精通しており、現在は株式会社The Pastの代表取締役、カリキュラム開発者として、グローバルな英語教育を推進している。

英語の音声を聞いて、聞き取れなかった箇所がある。スクリプトを開く。そこに書かれていたのは、全部知っている単語だった。

この経験があるなら、あなたの問題は語彙不足ではありません。そして、もっと単語を覚えても解決しません。

多くの学習者がここで対策を間違えます。「聞き取れない=英語力が足りない=単語を増やそう」という連想が自然に働くからです。しかし、スクリプトを読んで全部分かったという事実が、語彙は足りていることを証明しています。

問題は別の場所にあります。「意味を知っている」ことと「音として認識できる」ことは、別の知識だからです。

この記事では、その2つがなぜ別なのかを構造で説明し、自分の穴を可視化するディクテーションの手順を示します。読みながら試せる練習も用意しました。

結論:語彙には「文字の知識」と「音の知識」の2種類がある

先に結論を示します。

単語を覚えるとき、私たちは2つの別々の知識を作っています。

  • 文字語彙:綴りを見て意味が分かる
  • 音声語彙:音を聞いて、その語だと認識できる

この2つは自動的には繋がりません。 単語帳を目で覚えた場合、作られるのは文字語彙だけです。音声語彙は、別途作らなければ存在しません。

そして、リスニングで必要なのは音声語彙のほうです。文字語彙をいくら増やしても、リスニングは動きません。

これは根性や集中力の問題ではありません。使う知識が違うという、単純な構造の話です。

文字語彙と音声語彙が別の知識であることを示す対比図。文字語彙は読み書き、音声語彙は聞く話すに効く

根拠:技能によって相関する語彙が違う

この区別には、実証的な裏づけがあります。

Milton, Wade & Hopkins(2010)は、文字で測った語彙サイズ音声で測った語彙サイズが、英語の技能別スコアと異なるパターンで相関することを報告しました。

  • 文字語彙のサイズは、リーディング・ライティングと強く相関(相関係数 .70/.76)
  • 音声語彙のサイズは、リスニング・スピーキングと強く相関(.67/.71)

受験者30名の単一研究なので断定はできませんが、示唆は明確です。目で覚えた語彙が効くのは読み書きで、聞く話すには別の語彙が要る。

「読めるのに聞けない」という状態は、能力の欠如ではなく、まだ作っていない知識があるというだけのことです。

そしてこの構造は、The PAST のリスニング理論とも一致します。リスニングは音声知覚・意味理解・情報保持の3ステップで成り立っており、音声語彙は最下層の音声知覚に属します。 ここが空白なら、上の層がどれだけ強くても処理は始まりません(英語リスニングの勉強法)。

なぜ「知っている単語」が原形どおりに聞こえないのか

音声語彙が作られていないと、具体的に何が起きるか。単語が、単語帳で見た形のまま発音されないということです。

英語は、語が連なると音が変形します。この変形は気まぐれではなく、規則的なパターンを持っています。

① 連結 ― 語の境界が消える

前の語の末尾の子音が、次の語の頭の母音とくっつきます。

  • pick it up → 「ピッキラップ」
  • an hour → 「アナワー」

pick / it / up はどれも中学レベルの語です。 それでも聞き取れないのは、3語が1つの音のかたまりになり、単語帳で覚えた「ピック」「イット」「アップ」という区切りが消えるからです。

② 脱落 ― 音が発音されなくなる

同じ子音や似た子音が続くと、前の音が落ちます。

  • next day → 「ネクスデイ」(tが落ちる)
  • good bye → 「グッバイ」(dが落ちる)

③ 弱形 ― 機能語が曖昧母音に潰れる

of / at / to / for / can / have などの機能語は、文中で強く読まれません。母音が曖昧母音(schwa)に変わり、ほぼ聞こえない状態になります。

  • I could have done it. → 「アイクダヴダニッ」
  • a cup of tea → 「アカッパティ」

この現象が、「単語は知っているのに聞き取れない」の最大の原因です。 機能語は文の骨組みを担うため、ここが消えると文構造そのものが取れなくなります(英語の弱形(機能語)を聞き取る)。

④ 同化・変化 ― 音が別の音に変わる

隣接する音の影響で、音が変質します。

  • did you → 「ディジュ」
  • water(アメリカ英語)→ 「ワラー」(tがラ行に近い音になる)

この4種類は、まとめて英語の音声変化で扱っています。

重要なのは、これらが例外ではなく標準だということです。ネイティブスピーカーが丁寧に話しても、これらは起きます。つまり、単語帳で覚えた「原形の音」は、実際の会話ではほとんど登場しません。

単語帳を1冊やり切っても聞き取れないのは、当然のことです。登場しない形を覚えているからです。

自分の穴を可視化する ― ディクテーション

「聞き取れなかった」という感覚は、それだけでは対策になりません。どの語の、どの音で落ちたのかを特定する必要があります。

そのための唯一確実な方法がディクテーション(書き取り)です。

ディクテーションで穴を可視化する5ステップ。知らない語と知っている語を分ける工程を強調

手順

ステップ1:スクリプトを見ずに、聞こえたとおりに書く

1文ずつ止めて書きます。分からない箇所は、カタカナでも空白でも構いません。 大事なのは「分からなかった」という事実を紙の上に残すことです。

ステップ2:スクリプトと突き合わせる

書けなかった箇所、間違えた箇所に印を付けます。

ステップ3:印の箇所を2種類に分ける

ここが最も重要な工程です。

種類 判定方法 意味
知らない語だった スクリプトを見ても意味が分からない 語彙の問題。単語学習が必要
知っている語だった スクリプトを見た瞬間に意味が分かる 音声語彙の問題。音の訓練が必要

この2つを分けずに「復習」すると、対策が混ざります。 前者に必要なのは語彙学習、後者に必要なのは音の訓練で、やることが正反対です。

ステップ4:後者について、音声変化のどれに当たるかを特定する

「聞き取れなかった」で終えず、連結・脱落・弱形・同化のどれかまで落とします。ここまでやると、次に同じパターンが来たときに予測が効きます。

ステップ5:その箇所を、音声に重ねて発音する

スクリプトを見ながら、音声と同時に読みます(オーバーラッピング)。正しく発音できる音は、正しく聞き取れます。 発音能力と聴解能力には相関があり、口で再現できない音は耳でも判別しにくい。

書き取って終わりにしないでください。 声に出す工程がなければ、音声語彙は作られません。

詳しい手順は英語ディクテーションのやり方にまとめています。

なお、この段階でシャドーイング(スクリプトを見ずに音声を追いかけて発話する練習)を主軸にするのは勧めません。認知負荷が高く、音に注意を向ける余力が残らないためです。目的が「音を掴む」ことである以上、スクリプトを見ながら重ねるオーバーラッピングと、1チャンクずつ止めて反復する Listen & Repeat のほうが直接効きます(シャドーイングは意味ない?)。

記事内トレーニング|「知っている語なのに聞こえない」を体験する(約5分)

音源がなくても、構造は体験できます。次の3問に取り組んでください。

Practice 1:崩れた音から原形を復元する(約2分)

次の「実際に聞こえる音」が、どの英文かを考えてください。すべて基本語だけで構成されています。

① 「ワライズィッ」 ② 「アイシュダヴノウン」 ③ 「レミノウ」 ④ 「ゲラウラヒア」

答え

What is it? ― tが脱落し、tがラ行化して連結 ② I should have known. ― should have が「シュダヴ」に潰れる(弱形) ③ Let me know. ― tが脱落し、me と know が繋がる ④ Get out of here. ― get out of が全て連結し、tがラ行化

4つとも、単語単体なら全員が知っている語です。 それでも音からは復元できない。これが「単語は知っているのに聞き取れない」の正体です。

Practice 2:機能語の穴を意識する(約1.5分)

次の文を、強く読む語だけに印を付けてください。

I would have told you about it if I had known.

答え:強く読まれるのは told you known の3語程度です。

would have は「ウダヴ」、about it は「アバウリッ」、if I had は「イファイアッ」に近い音になります。11語の文で、はっきり聞こえるのは3語だけということが起こります。

ここで重要なのは、残りの8語は「聞き取る」のではなく「復元する」対象だということです。文法知識と文脈から埋めます。すべての音を等しく拾おうとすると、処理が破綻します。

Practice 3:自分の穴を1つ特定する(約1.5分)

手元にスクリプト付きの英語音声(教材でもポッドキャストでも構いません)を1分ぶん用意してください。

  1. スクリプトを見ずに聞き、聞き取れなかった箇所を1つメモする
  2. スクリプトを開く
  3. その語を知っていたかどうかを判定する
  4. 知っていたなら、音声変化のどれに当たるかを書く

これを1日1つ続けるだけで、自分の落ちるパターンが見えてきます。 多くの場合、同じ種類の音で繰り返し落ちています。

語彙学習のやり方を変える

ここまでの構造から、単語の覚え方も変わります。

新しい語を覚えるとき、必ず音とセットにしてください。

  • 単語帳の音声を必ず再生する(黙読で終えない)
  • 声に出す。 見て意味を確認するだけでは文字語彙しか作られない
  • 単語単体ではなく、フレーズ単位で音を入れるpick it up を1つのかたまりとして覚える)

3つ目が特に効きます。実際の音声では語が連なって変形する以上、単語単体の音を覚えても、連なった形は認識できません。 最初からフレーズで音を入れておけば、変形した形がそのまま音声語彙になります。

すでに覚えた語についても、同じことが必要です。手持ちの文字語彙を音声語彙に変換する作業が、この段階で最も費用対効果が高い学習になります。新しい語を足すより先に、こちらを終わらせてください。

どのくらいで変わるか

音声語彙の構築には時間がかかります。ただし、変化の出方には順序があります。

最初に変わるのは、機能語の弱形です。 種類が限られており(of / at / to / for / can / have / would など)、パターンも固定的なので、意識して1〜2週間ディクテーションを続けると、消えていた部分が「消えている」と分かるようになります。

次に変わるのが、連結と脱落です。 これは語の組み合わせに依存するため、遭遇量が必要です。数か月単位で見てください。

最後まで残るのは、速度への対応です。 音は拾えるようになったが、処理が追いつかないという段階が来ます。これは音声知覚の問題ではなく、意味理解の自動化の問題に移っています。ここまで来たら、対策は次の層に移してください英語リスニングが伸びない5つの原因)。

重要なのは、「聞き取れない」の中身が段階的に変わることです。 同じ症状に見えても、原因は移動します。

まとめ

単語は知っているのに聞き取れない。この症状の原因は、語彙不足ではありません。

  • 語彙には文字語彙(見て分かる)音声語彙(聞いて分かる)の2種類があり、自動的には繋がらない
  • 研究上も、文字語彙はリーディング・ライティングと、音声語彙はリスニング・スピーキングと相関する
  • 実際の音声では、語は連結・脱落・弱形・同化で変形する。単語帳で覚えた原形の音は、会話にほとんど登場しない
  • 対処はディクテーション。「知らない語だった」と「知っている語だった」を必ず分ける
  • 分けたうえで、後者は音声変化のどれに当たるかまで特定し、声に出して再現する
  • 語彙学習は音とセット・フレーズ単位に変える。新しい語を足す前に、手持ちを音声語彙に変換する

「もっと単語を覚えよう」という方向は、この症状には効きません。足りないのは語彙の量ではなく、語彙の種類です。

自分の穴が「語彙」なのか「音」なのか分からない方へ

この記事の手順は、ディクテーションで2つを切り分けられることを前提にしています。

ただし実際にやってみると、判定に迷う場面が出てきます。スクリプトを見て「ああ、この単語か」と思ったとき、それは本当に知っていた語なのか、それとも見て初めて意味を思い出した語なのか。この違いが曖昧なまま進めると、対策が混ざります。

そして音の訓練と語彙学習は、必要な時間も方法もまったく違います。取り違えたまま数か月続けると、時間だけが消えます。

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FAQ

Q. 単語を増やせば、いずれ聞き取れるようになりますか?

A. なりません。増えるのは文字語彙で、リスニングに必要なのは音声語彙です。ただし、音とセットで覚える方法に変えれば、語彙学習がそのまま音声語彙の構築になります。増やすこと自体ではなく、覚え方が問題です。

Q. どのくらいの期間で聞き取れるようになりますか?

A. 段階によって違います。機能語の弱形は1〜2週間の集中で変化が出始めます。連結・脱落は遭遇量が必要で、数か月単位です。「全体が聞き取れるようになる」という一括の目標ではなく、パターン別に潰してください。

Q. ディクテーションは1日どのくらいやればいいですか?

A. 時間より、分析の質です。1分の音声を丁寧に処理するほうが、10分を流すより効きます。目安として、1分の音声に10〜15分かける想定で構いません。書き取り自体より、ステップ3〜5に時間を使ってください。

Q. カタカナで書いてしまうのですが、問題ありませんか?

A. 問題ありません。むしろ有効です。聞こえたとおりのカタカナと、実際の英文を並べると、どこがどう変形したかが目で見えます。 これが可視化の本質です。ただし、そこで止めず、必ず英語の綴りと突き合わせてください。

Q. 速い音声で練習したほうが効果がありますか?

A. 逆です。速すぎる音声では、どこで落ちたかを特定できません。ゆっくりでも正確に処理できる状態を作ってから、速度を上げてください。 音声知覚の訓練では、聞き取れる素材で精度を上げるほうが先です。

Q. 発音練習はリスニングに関係ありますか?

A. 直接関係します。正しく発音できる音は、正しく聞き取れるという相関があります。特に音声変化は、自分で再現できるようになると、聞いたときに予測が効きます。 ディクテーションの最後に声に出す工程を入れているのは、このためです。

参考情報・出典

  • Milton, J., Wade, J., & Hopkins, N. (2010). Aural word recognition and oral competence in English as a foreign language.(文字語彙・音声語彙と技能別スコアの相関)
  • 音声変化の分類(連結・脱落・弱形・同化)および曖昧母音による機能語の弱化は、英語音声学の標準的な記述に基づく
  • リスニング3ステップ(音声知覚・意味理解・情報保持):The PAST メソッド
  • 発音能力と聴解能力の相関に関する位置づけ:The PAST メソッド(音声知覚)