英語のth発音の作り方|有声・無声の2音を舌位置から直す

th の発音は、「舌を噛む」と習った人がいちばん直らない音です。think が「シンク」に、this が「ジス」になる。知識としては知っているのに、話す瞬間には元に戻ってしまう。この記事は、その状態から抜けるための記事です。

最初に、検索してたどり着いたあなたの疑問に答えます。

th には2つの音があります。無声の /θ/(think, three)と、有声の /ð/(this, the)です。ただし、覚えるべき舌の位置は1つしかありません。舌先を上の前歯に軽く触れさせ、隙間から息を通す。 噛みません。この同じ構えのまま、声帯を震わせなければ /θ/、震わせれば /ð/ になります。

そして、th が直らない本当の原因は「舌の位置を知らないこと」ではありません。直すべき要素は舌位置・息・声帯の3つに分かれ、練習には正しい順番があります。聞き分け→舌位置→息→声帯。 この順で積めば、th は2音まとめて、聞き取りと同時に改善します。この記事では、その設計図を示したうえで、5〜10分の音声つきトレーニングで1周体験してもらいます。

結論 ― th は「舌位置1つ+声帯のオン・オフ」で2音まとめて直す

まず、th という音の構造を整理します。

  • /θ/(無声音) … think, three, third, month。舌先を上の前歯に軽く当て、隙間から息をこすらせる。声帯は震わせない
  • /ð/(有声音) … this, that, the, together。舌の構えと息は /θ/ とまったく同じ。声帯を震わせる

つまり /θ/ と /ð/ は、口の中の動きとしては同じ音です。違いは声帯のオン・オフだけです。ここを理解すると、th の練習は半分になります。舌位置と息の練習は1回で済み、あとは声帯の切り替えを覚えるだけだからです。

もう1つ、先に強調しておきます。舌は噛みません。 「上下の歯で舌を挟む」という教え方は入門の足場としては機能しますが、強く噛めば息の通り道が塞がり、摩擦音である th そのものが消えます。正解の状態は「舌先が前歯に軽く触れていて、その隙間から息が抜けている」ことです。

「thを直す順番」聞き分け→舌位置→息→声帯の4ステップ図。01聞き分け「/θ/と/s/、/ð/と/z/を別の音として認識する」、02舌位置「舌先を上の前歯に軽く触れさせる(θとðで共通)」、03息「隙間から息を通し、摩擦を鳴らす」、04声帯「オン・オフで2音を作り分け、単語→文で自動化する」。下部に「この順で積めば、thは2音まとめて改善する」の結論バー

直す順番は次の通りです。

  1. 聞き分け ― /θ/ と /s/、/ð/ と /z/ を「別の音」として認識する
  2. 舌位置 ― 舌先を上の前歯に軽く触れさせる(θ と ð で共通)
  3. ― 隙間から息を通し、摩擦を鳴らす
  4. 声帯 ― オン・オフで2音を作り分け、単語→文で自動化する

なぜ口の形ではなく聞き分けから始めるのか。それを理解するために、そもそもなぜ日本人の th がサ行・ザ行になるのかを構造から見ていきます。

なぜ日本人の th はサ行・ザ行になるのか ― 原因は3要素に分解できる

まず理解したいのは、th の誤りは不器用さの問題ではない、ということです。

日本語に「歯摩擦音」が存在しない ― だから /s/ /z/ で代用してしまう

th(/θ/ /ð/)は、舌先を前歯に当てて息をこすらせる「歯摩擦音」です。日本語の音の在庫には、この種類の音が存在しません。存在しない音を聞いたとき、脳は在庫の中からいちばん近い音を自動的に取り出します。/θ/ に対しては /s/(サ行)、/ð/ に対しては /z/(ザ行)です。

これは日本人に特有の癖ではなく、体系的な現象です。日本人学習者の英語摩擦音の知覚を調べた研究でも、英語の /θ/ を日本語の /s/ で、/ð/ を /z/ で置き換える傾向が報告されており、とくに /θ/ の聞き取りの難しさが指摘されています。think がシンクになるのは、口より先に、耳が th と s を同じ箱に入れているからです。

ここから重要な帰結が出ます。聞き分けられない音は、直せません。 自分の発音が /s/ に戻った瞬間を、自分の耳が検出できないからです。だから練習は口の形からではなく、聞き分けから始める必要があります。実際、聞き分けの訓練だけでも発音側に改善が波及する傾向が、知覚訓練研究のメタ分析で示唆されています。

「th ができない」の中身は3つに分かれる ― 舌位置・息・声帯

次に、産出側を分解します。「th ができない」という一言の中身は、実際には3タイプに分かれます。

  • 舌位置の問題 … 舌先が前歯に届いておらず、歯茎の裏あたりに留まっている。結果、/s/ /z/ になる。もっとも多いタイプ
  • 息の問題 … 舌位置は合っているが、強く噛みすぎて息が止まっている。結果、/t/ /d/ に近い破裂音になる(this が「ディス」)
  • 声帯の問題 … /θ/ と /ð/ を区別しておらず、think も this も同じ音で発音している

自分がどのタイプかで、処方は変わります。s/z になる人は舌位置を、t/d になる人は息を、2音の区別がない人は声帯を直す。「th のコツ」を一律に探すのではなく、自分の崩れている要素を特定することが、最短の直し方です。

「thが崩れる3タイプ」を3列比較した図。01舌位置の問題「舌先が前歯に届かず、歯茎の裏あたりに留まる」結果「/s/ /z/になる」(もっとも多いタイプ)、02息の問題「舌位置は合っているが、強く噛みすぎて息が止まる」結果「/t/ /d/に近い破裂音になる(thisが「ディス」)」、03声帯の問題「/θ/と/ð/を区別せず、thinkもthisも同じ音で発音している」結果「2音の区別がない」。下部に「自分の崩れている要素を特定することが、最短の直し方」の結論バー

なお、似た音での代用は th に限らず、カタカナ英語が通じない原因の中核です。全体像はカタカナ英語の直し方で整理しています。

th 練習でよくある4つの失敗

原因の構造が見えると、よくある練習の失敗も説明がつきます。

① 舌を強く噛む

「舌を噛む」という覚え方自体が悪いわけではありません。舌を前に出す感覚をつかむ足場にはなります。問題は、噛む力です。強く噛めば息の通り道が塞がり、摩擦音が破裂音に変わります。th は「噛む音」ではなく「息をこすらせる音」です。基準は、th を発音しながら手の甲を口の前に置いて、息が当たり続けているかどうかです。

② θ と ð を区別せず「th はひとつの音」だと思っている

think の th と this の th は、声帯の使い方が逆です。ここを区別しないまま練習すると、半分の単語で必ず外します。幸い、覚え直す量はわずかです。舌位置と息は共通で、違いは声帯のオン・オフだけ。this, that, the のような頻出語が有声 /ð/ だと知るだけで、発音の設計が変わります。

③ 文字で覚えて、音で覚えていない

単語を見れば「th だ」と分かるのに、聞いた瞬間・話した瞬間には s/z に戻る。これは知識が文字に紐づいていて、音に紐づいていない状態です。原因は、聞き分けの訓練を飛ばして口の練習だけをしてきたことにあります。/θ/ と /s/ が耳の中で別の音になっていなければ、自分の発音のズレも検出できません。

④ いきなりシャドーイングで直そうとする

発音を直す目的でシャドーイングを主軸に置くことは、The Past では推奨していません。音声に重ねて発声し続ける高負荷の練習では、舌位置に注意を向ける余力が残りません。誤った th のまま口が回るようになると、間違いが固まって(化石化)、あとから直すコストが大きくなります。理由と研究的根拠はシャドーイングは意味ない?で詳述しています。主軸に置くべきは、1チャンク聞いて止めて正確に反復する Listen & Repeat です。

独学で誤った形が固まってしまった場合の直し方は、英語発音の矯正で扱っています。

The PAST 式 ― th を作り直す4ステップ

ここから、直す手順を示します。順番に意味があります。飛ばさないでください。

Step 1 ― 聞き分ける

think/sink、three/free のようなミニマルペア(1音だけ違う単語のペア)を聞き、どちらが th かを判定します。正答できるようになるまで、口の練習より先にここを立てます。耳に /θ/ の箱ができると、自分の発音のズレも検出できるようになり、以降のすべての練習の精度が上がります。

Step 2 ― 舌位置を1つ覚える

舌先を、上の前歯の裏から先端にかけて軽く触れさせます。鏡を見て、上下の歯の間に舌先がわずかに見える程度で十分です。この構えは /θ/ と /ð/ で共通です。

Step 3 ― 息を通す

その構えのまま、息を吐きます。舌と歯の隙間から空気がこすれる音が出れば、それが /θ/ です。手の甲を口の前に置き、息が当たっているかを確認してください。

ここで効いてくるのが、発声の土台です。日本語は口先で音を作り、喉を狭めがちな言語です。その発声のままでは息の量が足りず、th の摩擦が鳴りません。The Past のメソッドでは、喉を大きく開き、リラックスした状態で息をしっかり使う英語の発声を土台に置きます。あくびをするイメージで喉の奥を開き、呼気の量を増やす。th に限らず、摩擦音全体の質はこの土台で決まります。

Step 4 ― 声帯を乗せて2音を作り分け、単語→文で自動化する

Step 3 の /θ/ の構えのまま、声を乗せます。喉に指を当てて振動していれば /ð/ です。2音が出せたら、負荷を段階的に上げます。単語(語頭の think、語中の together、語末の month)→チャンク(I think / this month)→文、の順です。単音でできても文の速度で戻るのが th の性質なので、必ず文まで持ち込みます。

「thを作り直す4ステップ」単語→チャンク→文で自動化する4ステップ図。01聞き分ける「ミニマルペアで/θ/を判定する」、02舌位置を1つ覚える「上の前歯の裏から先端に舌先を軽く触れさせる」、03息を通す「隙間から空気をこすらせ、摩擦音を鳴らす」、04声帯を乗せて2音を作り分ける(濃い紫で強調)「単語→チャンク→文の順に負荷を上げる」。下部に「単音でできても、必ず文まで持ち込む」の結論バー

記事内トレーニング ― 聞き分けから “I think” の即レスまで(約8分)

ここまでの4ステップを、音声つきで1周します。素材は英語会議の冒頭を想定した対話で、th を集中的に含みます。

Practice 1:聞き分ける(約1.5分)

鍛える能力:音声知覚 ― th と s/f/d を「別の音」として認識する。

文字を見ずに、ペア音声を聞いて「1つ目と2つ目のどちらが th か」を判定してください。全部聞いてから、下の文字で答え合わせをします。

【ミニマルペア】 think — sink / three — free / thank — sank / path — pass / they — day / worth — worse

迷ったペアだけ、もう一度聞き直します。多くの人が think/sink と path/pass で迷います。それが現在地です。

Practice 2:単音を作る(約2.5分)

鍛える能力:調音 ― 舌位置・息・声帯の順に確認して θ と ð を作る。

  1. 【舌位置】舌先を上の前歯に軽く触れさせる。噛まない。
  2. 【息】その構えのまま息を吐く。手の甲を口の前に置き、息が当たり続けていれば /θ/。お手本の摩擦音と聞き比べる。
  3. 【声帯】同じ構えのまま声を乗せる。喉に指を当てて振動していれば /ð/。
  4. スロー音声に続けて、think / three / this / the を1語ずつ発音する。喉はリラックスさせ、息を止めない。

Practice 3:チャンクで反復する(約2.5分)

鍛える能力:自動化 ― 文の速度でも舌位置を保つ。

会議の対話を、意味のかたまり(チャンク)ごとに反復します。まず全文と訳を確認してください。

【English】 A: Thank you all for joining on such short notice. B: No problem. What’s on the agenda this month? A: Three things. First, I’d like to go through the third-quarter results together. B: I think that’s the right place to start. A: Good. Then let’s begin with this chart.

【日本語訳】 A: 急なお声がけにもかかわらず、お集まりいただきありがとうございます。 B: 問題ありませんよ。今月の議題は何ですか? A: 3つあります。まず、第3四半期の結果を一緒に確認したいと思います。 B: そこから始めるのが適切だと思います。 A: では、このグラフから始めましょう。

【Chunked】 Thank you all / for joining / on such short notice. No problem. / What’s on the agenda / this month? Three things. / First, / I’d like to go through / the third-quarter results / together. I think / that’s the right place / to start. Good. / Then let’s begin / with this chart.

リピート用音声では、1チャンク流れたら止まり、反復のための無音が入ります。1チャンク聞いたら、ポーズの間にそのチャンクを正確に声に出して反復してください。th が s/z に戻っていないか、チャンクごとに舌先の位置を意識します。音声に重ねて同時に発声はしません。必ず「聞く→止める→言う」の順です。

Practice 4:即レスで仕上げる(約1.5分)

鍛える能力:自動化 ― 内容を考えながらでも th が崩れない状態を作る。

下の質問を1問ずつ読み、矢印の先のモデル解答を見る前に、3秒以内で1〜2文で即答してください。言い終えてからモデル解答と照合します。完璧な文でなくて構いませんが、th の舌先だけは意識します。

【質問とモデル解答】 Q1: How many things are on the agenda? → Three things. Q2: Which results will they go through? → The third-quarter results. Q3: What do you think of this plan? → I think this plan is worth trying.

ここまでやると、多くの人がこう気づきます。単音ではできたのに、内容を考えた瞬間に th が s に戻る。それが自動化の壁で、この壁は「気づける耳」ができた人から越えられます。

実践例 ― 会議で th が効く場面

直した th は、実務のどこで効くのか。2つの場面に絞って示します。

意見を言う ― “I think” は発言の入り口の音

英語会議で意見を言うとき、文頭に来るのは高い確率で “I think” です。ここの /θ/ が /s/ に戻ると “I sink(私は沈む)” に聞こえます。文脈で補正されるとはいえ、発言の第一声が毎回濁るのは損です。逆に言えば、I think という2語のチャンクだけでも自動化しておけば、発言のたびに th の練習機会が回ってきます。Practice 4 でやった「内容を考えながら th を保つ」は、この場面の直接の予行です。

数字と日付 ― three / thirty / third / Thursday は誤解コストが大きい

th は数字と日付に集中しています。three(3)、thirty(30)、thousand(1,000)、third(第3の)、Thursday(木曜)。金額・順位・日程は、聞き間違いがそのまま実務の損失になる情報です。three が free に聞こえれば数字が消え、Thursday が濁れば日程がずれます。Practice 1 の three/free の聞き分けと、Practice 3 の third-quarter の反復は、この誤解コストを直接下げるための素材です。

まとめ ― th は「コツ」ではなく「順番」で直る

この記事で変わったことを整理します。

読む前のあなたにとって、th は「舌を噛む音」という1つの知識でした。いまは違うはずです。th は舌位置1つと声帯のオン・オフで作り分ける2音(/θ/ /ð/)であり、サ行・ザ行になるのは日本語の音の在庫に歯摩擦音がないための体系的な代用だと理解しています。

そして「th ができない」を、舌位置・息・声帯の3要素に分解して診断できるようになりました。s/z になるなら舌位置、t/d になるなら息、2音の区別がないなら声帯。処方は要素ごとに違います。

練習の順番も手に入れました。聞き分け→舌位置→息→声帯→単語・文での自動化。口の形から入るのではなく、耳にカテゴリを作るところから積む。この順番は th に限らず、日本語にない音すべてに使える設計図です。英語の音の全体像は発音記号一覧(全44音素)で確認できます。th で使った手順を、次はあなたの弱い音に適用してください。

INTERNAL-LINK: ART-069 公開後(発音練習の4層モデル記事 eigo-hatsuon-renshu へのリンクをここに追加)

自分の th がどの要素で崩れているかを知りたい方へ

最後に、独学の限界を1つだけ正直に書きます。

th のような日本語にない音は、崩れた瞬間を自分の耳では捉えにくい音です。聞き分けの訓練が進むまでは、自分の /s/ 化した th を「できている」と誤認したまま反復してしまう。誤った形のまま固まると、あとからの矯正には時間がかかります。舌位置・息・声帯のどこで崩れているかの判定は、訓練された耳のフィードバックがあるほうが確実です。

The Pastの無料カウンセリングでは、現在の発音を要素ごとに分解し、どこを、どの順序で直すべきかを設計します。th を入り口に発音全体を作り直したい方は、一度ご相談ください。

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参考情報・出典

  • The PAST メソッド「英語発声 ― 喉の使い方」(社内一次資料)
  • Isono, T. “A Study of Japanese Learners’ Perceptual Identification of English Fricatives.” 愛知大学 語学教育研究室紀要 No.42. https://taweb.aichi-u.ac.jp/tgoken/bulletin/pdfs/NO42/05p039-049%20ISONO.pdf
  • Sakai, M., & Moorman, C. (2018). Can perception training improve the production of second language phonemes? A meta-analytic review of 25 years of perception training research. Applied Psycholinguistics. https://www.cambridge.org/core/journals/applied-psycholinguistics/article/does-perceptual-high-variability-phonetic-training-improve-l2-speech-production-a-metaanalysis-of-perceptionproduction-connection/E38D8F5CE65DC708137B0E95F97C6BC7
  • Flege, J. E. (1995). Second Language Speech Learning: Theory, Findings, and Problems. In W. Strange (Ed.), Speech Perception and Linguistic Experience. https://www.researchgate.net/publication/221479455_The_Relation_Between_Perception_and_Production_in_L2_Phonological_Processing