社会人の英語リーディング勉強法|精読・多読・速読をどの順でやるか

精読、多読、速読、スラッシュ、チャンク。名前は一通り知っている。それでも「どれから手をつけるか」が決まらず、とりあえず単語帳を続けている。仕事で英文を読む社会人の多くが、この状態で止まっています。

原因は知識の不足ではありません。手法を並べた解説は、順番を決める根拠を持っていないからです。自分がいまどの段階にいて、週に何分使えるかが決まらなければ、「精読→多読→速読」という順番は自分のものになりません。

この記事は手法を解説する記事ではありません。「どこで詰まっているか」と「週に何分使えるか」の2つから、今週やる手法と配分を決めるための記事です。各手法の中身は、担当する記事へ送ります。

結論|順番は「詰まりの診断」と「可処分時間」の2つで決まる

学習計画は次の2つで決まります。

  1. 詰まりの診断 ── 単語も文法も分かるのに読めないなら、足りないのは知識ではなく処理です。どの処理が未訓練かで最初にやる手法が決まります
  2. 可処分時間 ── 週に実際に取れる時間を実数で数え、約7割を1つの手法に集中させ、残りを維持に回します

手法を並べて「全部やる」と決めるのが最も遠回りです。理由はシンプルです。小さい可処分時間を5つの手法に割れば1つあたり数分しか残らず、どの処理にも変化が起きないまま数週間が過ぎます。

診断のやり方は本記事では扱いません。48語の英文で症状を判定する手順は「英文が読めない原因を診断する」が担当です。未診断の方は先にそちらで症状を確定してください。本記事は、診断結果を受け取ったあとに「何を・どの順で・週何分」を決める工程だけを担当します。

精読・多読・速読の順番は詰まりの診断と可処分時間の2つで決まることを示した図

前提|社会人のリーディングは、時間・目的・現在地が受験と違う

社会人のリーディングは受験と、前提が3つ違います。

時間。 「平日は毎日30分」という理想値ではなく、先週実際に読むことに使えた時間の実数で設計します。棚卸しの型は「社会人の英語学習が続かない理由」と同じです。

目的。 仕事で読む英文に設問はありません。必要なのは、相手が何を求めているかを前から読んで取り出す力です。

Could you confirm by Thursday whether the revised budget still covers the additional testing? (修正後の予算で追加テストの費用がまだ賄えるかどうか、木曜までに確認してもらえますか)

仕事で取り出すべきは「木曜までに」「予算が追加テストを賄えるかを確認する」の2点だけです。全語の構文分析や設問の先読みは主軸にしません。

現在地。 受験には共通の到達点(設問)がありますが、仕事の読みは詰まっている箇所が一人ずつ違うため、順番は一般解として書けず、診断結果から個別に決めます。

主読者は「語彙・文法を一通り持っていて、仕事で英文を読む人」です。基礎がまだ無い段階では手法の順番より土台が先で、その段階では多読より精読です。土台の作り方は「IELTSの勉強法|初心者が最初の3ヶ月で土台を作る順番」の順序がそのまま使えます。IELTS を受けない人も、土台の順序は同じです。

ステップ①|診断結果から、集中枠に置く手法を1つ決める

診断で症状が確定したら、最初にやる手法を1つに絞ります。

診断の結果足りないもの最初にやる手法
知らない語が多い知識(語彙)語彙を別枠で入れ、素材を1段下げて精読(語彙を埋めてから再診断)
時間をかけても訳せない知識(文法)精読(止まった箇所の確認から)
① 1文が長いと戻る処理・順序スラッシュ→チャンク
② 黙読が音読と同じ速さ処理・速度時間を計る速読の訓練
③ 読み終えると残らない処理・保持要約→チャンクの蓄積

複数当てはまる場合の順番は、診断記事が示すとおり知識 → ① → ③ → ②です。①が残っている限り②③は①の結果として起きるため、①を先に消します。

この表で決めるのは「最初にやる1つ」であって、やる手法の一覧ではありません。各手法の手順は送り先の記事が手順として持っており、本記事では書きません。

ステップ②|精読と多読の順番は「戻らずに読める水準」で切り替える

答えは、精読が先で、判定基準を満たした水準の素材から多読を並行して始めるです。

精読は読めない文を「前から戻らずに処理できる」回路に変える工程、多読はできた回路を量で回して自動化する工程です。Nation(2007)は両者を言語学習の別の柱として置いており、片方をもう片方で代用できません。

切り替えの判定は期間ではなく、素材の状態で行います。

  • 精読の対象 = 100語に知らない語が3〜5語あり、途中で意味が組めない、または語は分かるのに戻る文章
  • 多読の対象 = 100語に知らない語が2語まで(既知語率98%)で、初回に7〜9割分かり、戻らずに読める文章。3〜4語は境界で、理解度で判定し、精読を併用します
  • 語彙が先 = 100語に知らない語が6語以上の文章。精読しても最後の工程まで進めません

100語に2語は既知語率98%(Hu & Nation 2000)、5語は最低ラインの95%(Laufer & Ravenhorst-Kalovski 2010)の換算です。多読は知らない語を新しく覚える手段としては効率が悪いため(Waring & Takaki 2003)、語彙が足りない人は語彙の工程を別枠で持ってください。 入れ方は「英単語の覚え方」が扱っています。

精読の3工程は「英語の精読のやり方」、多読が効く2条件は「英語の多読に効果はあるのか」が担当です。本記事が扱ったのはいつ切り替えるかだけです。

ステップ③|1週間の型──集中枠に約7割、維持枠に約3割

ここが本記事の主軸です。

枠の単位は「1回15〜20分」

配分の単位は分ではなく枠です。1回の長さは注意が続く15〜20分に固定します。精読の1段落(80〜120語)も多読の1回も、この長さに収まります。先週実際に取れた枠の数が、今週の持ち時間です。

配分は集中枠7:維持枠3

The Past では、可処分時間の約7割を1つの手法に集中させ、残り3割を維持に充てることを指針にしています。7割は研究由来の数値ではなく設計指針で、趣旨は重点を作ることにあります。均等に撒く配分は、どの処理にも変化が起きにくい配分です。

集中枠に何を置くかは、ステップ①②の結果で3つの型に分かれます。

型現在地集中枠(約7割)維持枠(約3割)
A 語彙期知らない語が多い(100語に6語以上)精読(素材を1段下げる)語彙
B 精読期時間をかけても訳せない、または①戻る精読多読(戻らずに読める水準の素材で)
C 多読期②遅い、または③残らない(戻らずに読める)多読精読(1段上の水準の素材で)

型Bで週5枠なら精読4枠・多読1枠、週3枠なら精読2枠・多読1枠です。「多読は精読が終わってから」ではなく、戻らずに読める水準の素材で維持枠の多読を同時に始めます。型Cに移っても精読は消さず、1段上の水準で維持枠に残します。

1週間の型(3つの型と集中枠7:維持枠3)を示した図

スラッシュ・チャンク・速読・要約は、枠を増やさずに入れる

精読の枠は処理を「作る」時間、多読の枠は処理を「使う」時間で、ステップ①の手法はこの2つの枠に入ります。

  • スラッシュ・チャンク(症状①) ── 精読の枠で。精読の工程「チャンクで区切る」「前から音で通す」がそれに当たります
  • 速読(症状②) ── 多読の枠に時間計測を足します
  • 要約(症状③) ── 多読の枠の最後に、英文を見ずに内容を3点言う確認を足します

多読の枠の回し方(返り読みが起きたときの処理・週の語数の逆算・記録と切り替え)は「社会人の英語多読、続く進め方」の設計をそのまま使ってください。

記事内トレーニング|今週の計画を1枚で出す(約5分)

ステップ①〜③を自分の数字で埋めます。

項目出し方記入例
A. 診断の結果診断記事の判定(知識/①/②/③)①
B. 最初にやる手法ステップ①の表から1つスラッシュ
C. 型ステップ③の表から1つB 精読期
D. 週の枠数先週、実際に取れた15〜20分の枠の数5枠
E. 集中枠D × 約0.7(四捨五入。ただし維持枠は最低1枠。週1枠なら集中枠だけ)4枠(精読)
F. 維持枠D − E1枠(多読)

A〜Fを自分の数字でメモしてください。

Bは、Eの枠の中でやる中身です。記入例は仮の数字です。この計画を2週間動かさず、次の節の基準で測ってから組み替えます。

詰まり別|次に読む記事

計画を回し始めると詰まり方が変わります。詰まりごとの送り先です。

いまの詰まり読む記事
まだ診断していない。単語も文法も分かるのに読めない英文が読めない原因を診断する
知らない語が多くて、精読しても最後まで進まない英単語の覚え方
1文が長くなると戻るスラッシュリーディングのやり方→チャンクリーディングとは
戻らないのに遅い英語のリーディング速度を上げる方法
読み終えると頭に残らない英語の要約のやり方→チャンクリーディングとは
精読しているのに、次に似た文でまた止まる英語の精読のやり方
多読が効いているのか分からない英語の多読に効果はあるのか
多読が1週間で止まった。週何語読めばいいか社会人の英語多読、続く進め方
リーディング以外も含めた配分を見直したい社会人の英語学習が続かない理由
詰まり別の送り先と2週間ごとの切り替えを示した図

続ける仕組み|2週間ごとに測って、集中枠を移す

計画は2週間ごとに測って組み替えます。測るのは2つで、新しい教材は要りません。

  1. 精読の判定 ── 同じ水準の初見の文を、区切り線なしで前から戻らずに読めるか。読めた水準の素材が多読の素材になります
  2. 多読の判定 ── 同じ水準の素材の初回理解度と、既読の素材を読み切る時間。初回理解度が2回続けて(4週)9割を超えたら素材を1段上げます

型Aは、1段下げた素材で精読の判定が通ったら型Bへ。型Bで精読の判定が通ったら、集中枠を多読に移して型Cへ。型Cで多読の2つの数字が4週動かないなら、足りないのは量ではなく素材の水準か返り読みで、精読の枠でチャンク訓練をして確かめます。

枠が取れない週が続いたときに減らすのは、枠の数ではなく1回の長さです。枠が残っていれば、時間が戻ったときにそのまま戻せます。

よくある質問

Q. 精読と多読、結局どちらを先にやるべきですか?

A. 返り読みがある段階では精読が先です。ただし戻らずに読める水準の素材から多読を維持枠で始め、並行させます。判定は期間ではなく、初見の文を戻らずに読めるかで行います。

Q. スラッシュ・チャンク・速読はどれも並行してやるべきですか?

A. 並行しません。症状に対応する1つを集中枠に置きます。速読の訓練は最後です(理由はステップ①)。

Q. 何を読めばいいですか?

A. 特定の教材は要りません。精読なら100語に知らない語が3〜5語、多読なら2語までの文章です。仕事の英文メール・資料の1段落は精読の素材に、段階別読み物や英字ニュースの学習者向け版は多読の素材になります。書名は要りません。判定は既知語率で足ります。

Q. リーディングが伸びるとリスニングやライティングも伸びますか?

A. 多読で確認されている効果は読む速さと読解力で、リスニングは音声つきで読んだときの条件つきです。話す・書く力への直接の根拠は薄く、読めるチャンクを口に出す工程を別に挟む必要があります。その手順は「チャンクリーディングとは」の後半が担当しています。

まとめ|順番は「診断」と「可処分時間」の2つで決める

  • 順番は手法の名前ではなく、詰まりの診断と可処分時間の2つで決まる
  • 症状に対応する手法を1つだけ集中枠に置く。複数なら知識 → ① → ③ → ②
  • 精読が先。戻らずに読める水準の素材から多読を並行する
  • 15〜20分の枠を数え、約7割を集中枠、約3割を維持枠に。枠は増やさない
  • 2週間ごとに測り、通ったら集中枠を移す

手法を全部並べた計画が続かなかったのは、意志の問題ではなく、順番と配分を決める2つの物差しが無かっただけです。診断の結果と週の枠数を出して、今週の集中枠を1つに決めてください。

自分の診断結果と配分が合っているか、一人では決めきれない方へ

計画は出せたが、症状の判定と集中枠に置いた手法が本当に自分の詰まりに当たっているのか、一人では判断しきれない方は少なくありません。戻る動作や保持の抜けは、本人には自然な読み方として感じられるからです。

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参考情報・出典

  • Nation, I. S. P. (2007). The four strands. Innovation in Language Learning and Teaching, 1(1), 2–13.
  • Hu, M., & Nation, I. S. P. (2000). Unknown vocabulary density and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 13(1), 403–430.(既知語率98%)
  • Laufer, B., & Ravenhorst-Kalovski, G. C. (2010). Lexical threshold revisited: Lexical text coverage, learners’ vocabulary size and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 22(1), 15–30.(最低ライン95%)
  • Waring, R., & Takaki, M. (2003). At what rate do learners learn and retain new vocabulary from reading a graded reader? Reading in a Foreign Language, 15(2), 130–163.
  • 「2語まで」「5語」は上記の98%・95%を100語に換算した運用基準です。「7割/3割」「2週間」「15〜20分」「6語以上」「初回理解度7〜9割・9割超が4週」「知識 → ① → ③ → ②」は The Past の指導上の運用基準で、研究で示された閾値ではありません。数値は送り先の精読・多読・診断の各記事と同一です
  • 記入例は仮の数字。英文と日本語訳は The Past のオリジナルです

記事の執筆者 メイソン(株式会社The Past 代表 / 椿祐輔)

VERSANT満点(90点)、CEFR C2レベルの英語力を有する。フィリピンの語学学校で10年以上にわたりカリキュラムと教材開発に従事し、述べ5,000人以上の多国籍な英語学習者(日本、中国、台湾、ベトナム、ロシア等)の学習をサポート。言語学と音声学に精通しており、現在は株式会社The Pastの代表取締役、カリキュラム開発者として、グローバルな英語教育を推進している。