英語の多読に効果はあるのか|効く人・効かない人を分ける2つの条件
「多読は効果があると聞いて始めたが、伸びている実感がない」「300万語読んでも変わらなかった、という体験談も見かける」
多読で伸びた人と伸びなかった人の両方がいるのは、多読そのものの効き目がまちまちだからではありません。多読が効くには前提条件があり、その条件を満たしていない人が「多読」と呼んで別の作業をしているからです。
この記事では、多読の効果が分かれる条件を「既知語率」と「返り読み」の2つに絞り、研究で確認されている効果の範囲と、自分がどちらの条件で詰まっているかを判定する方法を示します。多読の進め方そのものは扱いません。
結論|多読が効くかどうかは「量」の前に2つの条件で決まる
先に結論を述べます。多読が効くのは、①素材の既知語率が高く、②返り読みをせずに前から読めている人です。 この2つが揃った状態で積んだ量だけが効きます。揃っていない状態で語数を増やしても、読む速さも理解も伸びません。
本記事の多読は、次のように定義します。
- 多読 = 理解できる素材(既知語率が高く、初回で7〜9割分かる水準)を、内容に注意を向けたまま、量を読むこと
- 流し読み = 理解できない素材を、注意を向けずに目で追うこと
区別は「素材が理解できるか」と「注意が向いているか」の2軸です。両方を満たすのが多読で、どちらかを欠いた時間は多読に数えません。多読の効果は量そのものではなく、2条件を満たしたまま量を積んだ結果として出ます。根拠は Krashen(1985)の理解可能なインプットと、Schmidt(1990)の「注意を向けた入力だけが取り込まれる」という気づき仮説です。
2つの条件の組み合わせで、多読の結果は4通りに分かれます。

| 既知語率\返り読み | 返り読みをしていない | 返り読みをしている |
|---|---|---|
| 既知語率が足りている | 多読が効く。読む速さ→理解の安定→既知語の定着の順に伸びる | 量が返り読みの癖を固める。先に処理の形を変える |
| 既知語率が足りない | 推測に負荷を取られ、注意が内容に向かない。素材を下げるか語彙を別に入れる | 多読の段階ではない。精読で1文の処理から作る |
「効果なし」「意味ない」という体験談の多くは、右列か下段の状態で語数だけを積んだ結果です。多読が効かなかったのではなく、条件が満たされていなかったと考えるのが自然です。
条件1|既知語率──レベルが合っていない多読は「読んでいるだけ」になる
まず理解したいのは、多読の素材は「少し難しい」ではなく「ほぼ全部分かる」水準を選ぶということです。
Krashen(1985)の理解可能なインプット(i+1)は「今の力より少し上」と紹介されることが多いのですが、多読の研究はこれをさらに易しい側に置きます。Day & Bamford(1998)は多読の素材を、学習者の力の内側に収まる「i−1」に置くべきだと述べています。理由はシンプルです。多読が効くのは意味が取れている間だけで、意味が取れない文を目で追う時間は多読になりません。
「ほぼ全部分かる」の目安は、既知語率で測れます。
- Hu & Nation(2000)は、辞書なしで内容を十分に理解するには、本文の98%の語を知っている必要があることを示しました
- Laufer & Ravenhorst-Kalovski(2010)は、95%を最低ライン、98%を望ましい水準としています
100語のうち知らない語が2語までなら多読の素材です。6語以上なら、その素材は多読ではなく精読の対象です。
既知語率が足りないと何が起きるか。知らない語のたびに推測が要り、推測に注意を取られるほど文の意味を組み立てる余力が減ります。読み終えても内容が残らない、つまり流し読みに変わります。「基礎語彙がないと多読は効かない」という説明の実体はここにあり、語彙の不足そのものより、注意が内容に向かなくなることが問題です。
ここで1つ誤解を正します。「多読で語彙を増やせばよい」という考え方です。Waring & Takaki(2003)は、多読で出会った新しい語の習得は緩やかで、何度も出会わない語は定着しないことを示しました。多読は既知語を「見た瞬間に意味が出る」状態に固めるには向きますが、知らない語を新しく覚える手段としては効率が悪いのです。語彙そのものが不足しているなら、多読とは別に語彙を入れる工程が要ります。その方法は「英単語の覚え方」で扱っています。
条件2|返り読み=チャンク処理ができていないと、量を読んでも速度も理解も伸びない
既知語率が足りていても効かない人がいます。文末まで目を走らせてから前に戻り、日本語の語順に組み替えて意味を取る「返り読み」をしている人です。
多読の解説では「返り読みをしない」がルールとして置かれます。ここで重要なのは、返り読みは「しないと決めればやめられる癖」ではなく、意味のかたまり(チャンク)で前から意味を確定する処理が未訓練なために起きるということです。処理が育っていない人にルールだけ与えても、文が長くなった瞬間に戻ります。

なぜ返り読みのまま量を読んでも伸びないのか。Grabe(2009)は、読む速さ(fluency)を語の認識や構文の処理といった下位の処理が自動化された結果として説明します。Nation(2007)も、読む速さを伸ばす練習には「ほぼ全部知っている易しい素材」が要るとしています。多読が伸ばすのは、この「前から意味を確定する処理」の自動化です。
逆に言えば、量が自動化するのは「いま使っている処理」です。返り読みで文を2回処理する読み方のまま量を積めば、自動化されるのは返り読みのほうで、読む速さは上がりません。The Past が「返り読みをしている人は多読の前に処理の形を変える」と判断するのは、この構造からです(この判断は研究が直接示したものではなく、指導上の見立てです)。
研究の側でも、量の効果は素材の条件つきで出ています。Beglar, Hunt & Kite(2012)は日本人大学生を対象に1年間の多読の効果を調べ、レベルに合った段階別読み物を多く読んだ学生ほど読む速さが伸びた一方、難しい原書を読んだ学生では速さの伸びが小さかったと報告しています。量は、処理できる素材でしか効きません。
返り読みが起きる仕組み(ワーキングメモリの上限)と、前から意味を確定する処理の作り方は「チャンクリーディングとは」で、癖を直す具体的な手順は「スラッシュリーディングのやり方」で扱っています。
多読で何が伸びて、何が伸びないのか
2条件を満たした多読の効果は、研究で確認された範囲とそうでない範囲があります。
| 能力 | 多読の効果 | 条件 |
|---|---|---|
| 読む速さ | 効く | 既知語率98%前後の素材で、返り読みをしていないこと |
| 読解力 | 効く | 同上。メタ分析(Nakanishi 2015)で読解と読む速さへの効果が確認されている |
| 語彙 | 条件つき | 既知語の定着には効く。新しい語の習得は緩やか(Waring & Takaki 2003) |
| リスニング | 条件つき | 音声つきで読み、読めるチャンクを音と結びつけたとき |
| スピーキング・ライティング | 直接の根拠は薄い | 読んだチャンクを口に出す・書く工程を別に挟んだとき |
Elley & Mangubhai(1983)は、大量の読み物を教室に投入した実験で読解に加えてリスニングの伸びも報告していますが、この実験は読み聞かせを含む環境です。黙読だけの多読がリスニングに効くという根拠は、本記事で引いた研究の範囲では読めません。 話す力・書く力は、多読単体の効果を確認した研究が乏しく、本記事では「効く」とは書きません。
多読は「読む処理を自動化する」練習です。期待する効果の範囲をここに絞るのが、続けるうえでも判定するうえでも正確です。
効果が出るまでの期間・語数の目安
「100万語」という数字は、酒井(2002)が提唱した多読の進め方で目標として置かれたもので、研究が示した閾値ではありません。本記事で引いた研究の範囲では、何語読めば効くという固定の数字は示されていません。 効果は読んだ語数ではなく、2条件を満たした状態で読んだ語数に比例します。
The Past では、期間ではなく次の2つの数字で判定します。
- 同じレベルの素材の初回理解度。 初めて読む素材で、内容が7〜9割取れる水準から始め、9割を超える状態が安定して4週続いたら素材を1段上げます
- 同じ素材を読み切る時間。 既読の素材を読み直したときに、返り読みなしで最初より短い時間で読み切れていれば処理が動いています
1日にどれだけ読むか、週の中でどう配分するかという運用の組み方は、多読の続け方を扱う記事に譲ります。4週間、この2つの数字が動かないなら、足りないのは量ではなく、素材のレベルか返り読みのどちらかの条件です。
記事内トレーニング|自分の既知語率とチャンク処理をチェックする
ここまでの2条件を、実際に判定します。読めない原因そのものは「英文が読めない原因を診断する」で扱っています。ここではこの素材が自分にとって多読の水準かだけを判定します。題材は社内の会議変更の連絡(約100語)です。まず英文を、辞書を引かずに1回だけ読んでください。 読み終えてから、下の3つを確認します。
【English】 Our team has decided to move the weekly review meeting from Friday afternoon to Monday morning, starting next week. The main reason is that most of the issues we discuss on Friday cannot be fixed until Monday anyway, so the team loses a day. Moving the meeting also gives everyone a clear list of priorities at the start of the week. If you cannot attend on Monday, please send your updates to Ken by Friday evening so that he can share them in your place. We will try this for one month and decide in October whether to keep the new schedule.
【日本語訳】 私たちのチームは、来週から週次レビュー会議を金曜午後から月曜午前に移すことにしました。主な理由は、金曜に話し合う問題の大半はどのみち月曜まで直せず、チームが1日を失うためです。会議を移すことで、週の初めに全員が優先順位の一覧を持てるようにもなります。月曜に出席できない場合は、ケンが代わりに共有できるよう、金曜夕方までに進捗を送ってください。これを1か月試し、10月に新しい日程を続けるかどうか決めます。
チェック1:既知語率──知らなかった語を数える
英文の中で、意味が出てこなかった語を数えます。約100語なので、2語以下なら98%、6語以上なら95%を下回ります。 2語以下ならこのレベルは多読の素材です。3〜4語なら境界です。チェック3で3つとも言えれば多読の素材、1つしか言えなければ素材を1段下げてください。6語以上なら、この水準の素材で多読を始めるのは早く、素材を1段下げるか、語彙を別に入れる工程が先です。
チェック2:返り読み──2文目でどう読んだか
2文目をもう一度見てください。
The main reason is that most of the issues we discuss on Friday cannot be fixed until Monday anyway, so the team loses a day.
the issues の後ろに we discuss on Friday が続き、そのあとに cannot be fixed が来ます。ここでいったん Friday や anyway まで目を走らせてから the issues に戻り、「金曜に話し合う問題は」と組み立て直したなら、返り読みです。前から読めている人は、次のように区切りごとに意味を確定して、戻りません。
The main reason is / that most of the issues / we discuss on Friday / cannot be fixed / until Monday anyway, / so the team loses a day. (主な理由は/問題の大半が/金曜に話し合う/直せない/どのみち月曜まで/だからチームは1日失う)
日本語として整った文にはなりません。それでよく、戻らずに意味が積み上がっているかだけを見ます。
チェック3:理解度──読み終えて何が残っているか
英文を見ずに、次の3つを言えるか確認します。会議はいつからいつに移るか、出席できない人は何をするか、決定はいつか。3つとも言えれば、この素材は多読の水準です。 1つしか言えないなら、既知語率が足りていても注意が内容に向いていません。返り読みで処理に余力が残っていないかを疑ってください。
詰まっている条件別の次の一歩
3つのチェックの結果で、次に読む記事が決まります。

| チェックの結果 | 詰まっている条件 | 次の一歩 |
|---|---|---|
| 知らない語が6語以上 | 既知語率 | 素材を1段下げる。語彙そのものが足りないなら語彙の工程を別に持つ |
| 2文目で戻った | 返り読み(チャンク処理) | スラッシュリーディング/チャンクリーディングで前から確定する処理を作る |
| 語も分かり戻らないが、遅い | 速度 | 速読の訓練設計へ |
| 語も分かるが内容が残らない | 注意(返り読みを疑う) | チェック2へ戻る |
| 両方に当てはまる | 1文の処理 | 精読で1文を前から処理する回路を作ってから多読へ |
- 返り読みが直っていない人は、「スラッシュリーディングのやり方」で区切って前から確定する手順を通し、「チャンクリーディングとは」でチャンクの認識から蓄積までを鍛えてください
- 語も分かり戻らないのに遅い人は、多読の条件は満たしています。速さそのものを上げる訓練は「英語のリーディング速度を上げる方法」で設計できます
- 両方に当てはまる人は、多読の段階ではありません。精読で1文を前から処理する工程を作るのが先です
- 2条件とも満たしている人は、多読が効く側です。素材のレベル決めや週の語数といった続く進め方は、別記事で扱います
単語も文法も分かるのに読めない、という症状から原因を切り分けたい方は、「英文が読めない原因を診断する」を先に読んでください。
よくある質問
Q. 多読の三原則(辞書を引かない・分からないところは飛ばす・つまらなくなったらやめる)は守るべきですか?
A. 3つとも、既知語率が足りている素材でだけ成り立つ原則です。「飛ばす」が成立するのは、飛ばす語が100語に2語程度のときで、6語以上の素材で飛ばし続けると意味が組めなくなります。「辞書を引かない」は、引かなくても意味が組める素材を選ぶことの裏返しです。原則を守るかどうかより、原則が成り立つ素材を選べているかを先に確認してください。
Q. 多読と精読はどちらを先にやるべきですか?
A. 返り読みがある段階では精読が先です。精読で1文を前から処理する回路を作り、多読でその回路を量で回す順番です。ただし「精読を数か月やってから多読」ではなく、精読で処理できるようになった水準の素材から多読を始めるため、両方を並行できます。土台の段階でこの順序を採る理由は「IELTSの勉強法|初心者が最初の3ヶ月で土台を作る順番」でも述べています。
Q. 多読で話せるようになりますか?
A. 多読だけで話す力が直接伸びる根拠は確認されていません。多読が自動化するのは「読んで意味を取る」処理で、「意味から英文を組み立てて発話する」処理は別の能力です。多読で蓄積したチャンクが話す部品になるのは、そのチャンクを口に出す工程を別に挟んだときで、読むだけでは口には入りません。読めるチャンクを音と発話につなぐ手順は「チャンクリーディングとは」の後半で扱っています。
まとめ|量を増やす前に、2条件が揃っているか確認する
- 多読が効くのは、既知語率が足りていて、返り読みをしていない人。この2条件を満たした語数だけが効く
- 既知語率の目安は98%(100語に知らない語が2語まで)。6語以上の素材は多読ではなく精読の対象
- 返り読みは意志でやめられる癖ではなく、チャンクで前から意味を確定する処理の未訓練。この状態で量を積むと、返り読みのほうが自動化される
- 研究で確認された効果は読む速さと読解力。語彙とリスニングは条件つき、話す・書くへの直接の根拠は薄い
- 判定は語数や期間ではなく、初回理解度と読み切る時間の2つの数字で行う
多読は、効く人と効かない人がいる方法ではなく、条件を満たした人にだけ、読む処理の自動化として効く方法です。語数を増やす前に、どちらの条件で詰まっているかを確定してください。
自分がどちらの条件で詰まっているか、一人では判定しきれない方へ
記事内のチェックで結果がはっきりしない、返り読みをしているかどうか自分では観察できない、という方は少なくありません。処理の癖は、本人には自然な読み方として感じられるからです。
The Past の公式LINEでは、英語力を能力単位に分解し、効かない練習に時間を使わないための学習情報と特典をお届けしています。多読を始めるか、先に処理を鍛えるかを決める材料として使ってください。
参考情報・出典
- Hu, M., & Nation, I. S. P. (2000). Unknown vocabulary density and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 13(1), 403–430.(辞書なしの十分な読解に必要な既知語率98%)
- Laufer, B., & Ravenhorst-Kalovski, G. C. (2010). Lexical threshold revisited: Lexical text coverage, learners’ vocabulary size and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 22(1), 15–30.(既知語率95%を最低ライン、98%を望ましい水準とする)
- Day, R. R., & Bamford, J. (1998). Extensive Reading in the Second Language Classroom. Cambridge University Press.(多読の素材を学習者の力の内側「i−1」に置く考え方)
- Krashen, S. D. (1985). The Input Hypothesis: Issues and Implications. Longman.(理解可能なインプット)
- Schmidt, R. (1990). The role of consciousness in second language learning. Applied Linguistics, 11(2), 129–158.(気づき仮説。注意を向けた入力だけが取り込まれる)
- Nakanishi, T. (2015). A meta-analysis of extensive reading research. TESOL Quarterly, 49(1), 6–37.(多読の読解力・読む速さへの効果のメタ分析)
- Beglar, D., Hunt, A., & Kite, Y. (2012). The effect of pleasure reading on Japanese university EFL learners’ reading rates. Language Learning, 62(3), 665–703.(日本人大学生の1年間の多読と読む速さの関係。段階別読み物を多く読んだ群で速さが伸びた)
- Waring, R., & Takaki, M. (2003). At what rate do learners learn and retain new vocabulary from reading a graded reader? Reading in a Foreign Language, 15(2), 130–163.(多読による新語の習得は緩やかで、遭遇回数の少ない語は定着しない)
- Elley, W. B., & Mangubhai, F. (1983). The impact of reading on second language learning. Reading Research Quarterly, 19(1), 53–67.(教室への大量の読み物の投入と読解・リスニングの伸び。読み聞かせを含む環境)
- Grabe, W. (2009). Reading in a Second Language: Moving from Theory to Practice. Cambridge University Press.(読む速さを下位処理の自動化として説明する枠組み)
- Nation, I. S. P. (2007). The four strands. Innovation in Language Learning and Teaching, 1(1), 2–13.(読む速さを伸ばす練習に易しい素材が要るとする「4つのストランド」)
- 酒井邦秀(2002)『快読100万語!ペーパーバックへの道』筑摩書房(「100万語」の目標と多読三原則の提唱)
- 「初回理解度7〜9割で始め、9割を超える状態が安定して4週続いたら素材を上げる」「効果が出る順序(読む速さ→理解の安定→既知語の定着)」「リスニングの条件(音声つきで読み、読めるチャンクを音と結びつける)」「返り読みのまま量を積むと返り読みが自動化される」は The Past の指導上の運用基準・見立てであり、研究で示された閾値・結果ではありません
- 本記事の英文と日本語訳は The Past が記事内のチェック用に作成したオリジナルです