英語の発音記号の読み方|記号を「音の作り方」に変換する手順
発音記号の一覧表は、検索すればいくらでも出てきます。/æ/ は「ア」に近い音、/θ/ は舌を歯に当てる音——そう書いてあります。
一覧表を眺めて、覚えた気になって、辞書を引いて、結局カタカナで読んでいる。これが多くの人の実際です。
原因ははっきりしています。発音記号を「音の名前」として覚えているからです。
発音記号は、音につけられた名前ではありません。口をどう動かすかを指定した記号です。指定の読み方を知らないまま記号だけ覚えても、口は動きません。
この記事では、記号から口の動きを取り出す手順を示します。一覧表ではなく、変換の手順です。
結論:発音記号は「音の名前」ではなく、口の動きの指示書
先に結論です。
発音記号1つは、同時に3つの指定を出しています。子音の場合、それは次の3つです。
- どこで(舌や唇のどの部分が、口の中のどこに近づくか)
- どうやって(完全に塞ぐのか、狭めて息を通すのか、鼻に抜くのか)
- 声を出すか(のどを震わせるか、息だけか)
この3つが決まれば、音は一意に決まります。逆に言えば、この3つを読み取れれば、聞いたことがない音でも作れます。

発音記号の読み方とは、記号からこの3項目を取り出す作業のことです。「/θ/ はス」と覚えるのは、この3項目を全部捨てて、日本語の音に置き換えているだけです。
なぜカタカナ変換だと、記号を覚える意味が消えるのか
日本語話者が発音記号でつまずく理由は、カタカナに変換した瞬間に区別が消えることにあります。
たとえば、次の3つはすべて「ア」と説明されがちです。
| 記号 | 代表語 | カタカナ表記 |
|---|---|---|
/æ/ |
cat, bad, map | ア(キャ) |
/ʌ/ |
cup, but, love | ア |
/ɑː/ |
father, hot, calm | アー |
カタカナに直した時点で、3つが1つになります。そして辞書で /kʌp/ と書いてあっても「カップ」と読むので、記号を見た意味がありません。
記号が存在する理由は、カタカナでは書き分けられない差を書き分けるためです。その差を口の動きに戻せなければ、記号は装飾でしかありません。
日本語の音に引き寄せて発音してしまう構造そのものは、カタカナ英語の直し方で扱っています。
子音記号の読み方|3項目に分解する
子音の記号は、次のように読みます。実際に口を動かしながら読んでください。
例1:/θ/ と /ð/
| 項目 | 指定 |
|---|---|
| どこで | 舌先を、上の前歯の先に軽く当てる |
| どうやって | 完全には塞がず、隙間から息を通し続ける(摩擦) |
| 声を出すか | /θ/ は息だけ、/ð/ はのどを震わせる |
think three は /θ/、this they は /ð/ です。この2つは、口の形が完全に同じで、声の有無だけが違います。片方ができればもう片方はできます。
日本語の「ス」「ズ」との違いは、舌先が歯に触れているかどうかの1点です。触れていなければ /s/ /z/ になります。詳しい練習手順はthの発音のやり方にあります。
例2:/r/ と /l/
| 記号 | どこで | どうやって | 声 |
|---|---|---|---|
/l/ |
舌先を上の歯ぐき(前歯のすぐ後ろの盛り上がり)にしっかり付ける | 付けたまま、舌の両脇から声を流す | 出す |
/r/ |
舌先をどこにも付けない。舌の中央を持ち上げるか、舌先を軽く後ろへ反らす | 触れずに近づけるだけ | 出す |
最大の違いは「触れるか、触れないか」です。この1点だけで区別できます。
/r/ の作り方には2通りあります。舌の中央を盛り上げる型と、舌先を反らす型です。どちらでも正しい音になります。英語母語話者の中でも分かれています。自分の口でやりやすいほうを選んでください。
/r/ に唇の丸めが伴うことも覚えておくと安定します。両者の作り分けはRとLの発音の違いで詳しく扱っています。
例3:/ŋ/
| 項目 | 指定 |
|---|---|
| どこで | 舌の奥を、口の天井の奥(やわらかい部分)に付ける |
| どうやって | 口は塞いだまま、息を鼻へ抜く |
| 声を出すか | 出す |
sing long thinking の最後の音です。この音は日本語話者にとって難しくありません。「マンガ」と言うときの「ン」が、まさにこの音だからです。
難しいのは、綴りに引きずられて /g/ を足してしまうことです。singer は /ˈsɪŋər/ で、g の音は入りません。記号を見れば /g/ が無いことが分かります。これが記号を読める利点です。
母音記号の読み方|指定される項目が違う
母音は、子音とは違う3項目で指定されます。
- 舌の高さ(口をどれだけ開くか)
- 舌の前後(舌の盛り上がりが前か後ろか)
- 唇の形(丸めるか、丸めないか)
これに、緊張しているか・力を抜いているか(tense / lax)が加わります。
日本語話者が最初に押さえる4つ
| 記号 | 舌の高さ | 舌の前後 | 唇 | 代表語 |
|---|---|---|---|---|
/iː/ |
高い | 前 | 横に引く・緊張 | see, meet, key |
/ɪ/ |
やや高い | 前寄り | 力を抜く | sit, big, ship |
/æ/ |
低い | 前 | 横に開く | cat, bad, map |
/ʌ/ |
中くらい | 中〜後ろ | 丸めない・力を抜く | cup, but, love |
/iː/ と /ɪ/ の違いは、長さではありません。「イー」と「イ」で覚えると失敗します。違うのは口の緊張と舌の位置です。/ɪ/ は力を抜いた音で、日本語の「イ」よりも口の開きがやや大きく、あいまいです。
seat /siːt/ と sit /sɪt/ を、長さだけで区別しようとすると通じません。速く話すと長さの差は消えるためです。
最も出現頻度が高い記号は /ə/
/ə/(シュワー)は、英語で最も多く現れる母音です。そして、日本語話者が最も無視している記号でもあります。
| 項目 | 指定 |
|---|---|
| 舌の高さ | 中央 |
| 舌の前後 | 中央 |
| 唇 | 丸めない |
| 力 | 完全に抜く |
about /əˈbaʊt/ の最初、teacher /ˈtiːtʃər/ の最後。強勢のない音節では、母音は /ə/ に変わります。綴りが a でも o でも u でも、記号は /ə/ です。
ここを「ア」「オ」「ウ」と綴りどおりに読むと、リズムが崩れて通じなくなります。英語のリズムは、強い音節と弱い音節の差でできているためです。この差が音の変化を生む仕組みは英語の音声変化にまとめています。
記号を「自分の口の動き」に変換する3ステップ

ここまでを手順にまとめます。辞書で知らない記号を見たとき、次の順で処理してください。
ステップ1|記号が子音か母音かを見分ける
子音記号は、口のどこかが触れる/狭まることを指定します。母音記号は、舌の位置と唇の形を指定します。
見分けがつかない記号に当たったら、その記号が使われている代表語を1つ見つけます。辞書の発音記号一覧には代表語が併記されています。
ステップ2|3項目に分解する
子音なら「どこで・どうやって・声を出すか」。母音なら「舌の高さ・舌の前後・唇の形」。
このとき、日本語の音に置き換えないでください。「ス」に近い、と考えた時点で、3項目が消えます。
ステップ3|口を動かして、音を出す前に形を作る
いきなり発音しないでください。先に口の形だけ作って、止めます。
- 舌先はどこにあるか
- 上下の歯は開いているか
- 唇は丸いか、横に引いているか
形が指定どおりになっていることを確認してから、息を出します。この順序を守ると、記号どおりの音が出ます。逆にすると、耳が覚えている音(=カタカナ)に引っ張られます。
自分の口の形を確認するには、鏡を使うか、スマートフォンで口元を撮ってください。自分の口の中は見えないので、外から見える範囲だけでも確認する価値があります。
全部覚える必要はない|覚える順番
英語の音素は、44程度と数えられます(イギリス英語の標準的な数え方。アメリカ英語では母音の数え方が変わります)。
44個を順に覚えるのは、効率が悪い方法です。日本語にある音は、記号を読めなくても発音できます。/p/ /b/ /t/ /d/ /k/ /g/ /m/ /n/ /s/ /h/ などは、日本語話者にとって新しく学ぶ音ではありません。
優先して読めるようにすべきなのは、日本語に存在しない区別です。
| 優先度 | 記号 | 理由 |
|---|---|---|
| 最優先 | /ə/ |
出現頻度が最も高い。リズムに直結する |
| 最優先 | /r/ /l/ |
日本語では1つの音に対応し、区別が無い |
| 高 | /æ/ /ʌ/ /ɑː/ |
日本語では全部「ア」になる |
| 高 | /θ/ /ð/ |
日本語に無い調音。綴りで判別できない |
| 高 | /iː/ /ɪ/ |
長さで覚えると失敗する |
| 中 | /v/ /f/ |
日本語の「ブ」「フ」と調音が違う |
| 中 | /ʃ/ /ʒ/ /tʃ/ /dʒ/ |
日本語の音と近いが同一ではない |
| 低 | 上記以外 | 日本語の音で近似しても大きく崩れない |
上から4行だけで、日本語話者の発音の問題の大半が説明できます。残りは、必要になったときに調べれば足ります。
記事内トレーニング|記号から音を作る(3分)
一覧表を見ずに、記号だけから口の形を決めてください。
問題1 — /ʃ/ を3項目に分解すると、どうなりますか。
解答:どこで=舌先を歯ぐきよりやや後ろに近づける/どうやって=狭めて息を通す(摩擦)/声=出さない。代表語は she shop nation。日本語の「シ」より唇をやや前に突き出すと近づきます。
問題2 — ship /ʃɪp/ と sheep /ʃiːp/ を、長さを変えずに区別して発音してください。
解答:/iː/ は口を横に引いて舌を高く前に、緊張させます。/ɪ/ は力を抜き、舌の位置をやや下げます。長さではなく、口の緊張が差です。長さで区別する癖がついていると、速く話したときに区別が消えます。
問題3 — photograph /ˈfoʊtəɡræf/ と photography /fəˈtɑːɡrəfi/。同じ photo の部分が、なぜ違う記号になっているのでしょうか。
解答:強勢の位置が動いたためです。photograph では強勢が最初の音節にあるので pho は /foʊ/ と明瞭に読まれます。photography では強勢が2音節目に移るため、pho は力が抜けて /fə/ になります。
綴りは同じ photo です。綴りを見ている限り、この変化は予測できません。記号を見れば、どの音節に力を入れ、どこを弱く読むかが1文字で分かります。これが記号を読む最大の実利です。
音を実際に作る練習は、英語発音の練習法と、44の音素を1つずつ試せる英語の44音素を使ってください。この記事が「読み方」、そちらが「練習」の担当です。
辞書によって記号が違うのはなぜか
同じ単語なのに、辞書によって記号が違うことがあります。これは誤りではありません。
- アメリカ英語とイギリス英語で音が違う:
hotは米/hɑːt/、英/hɒt/ - 同じ音に複数の表記が使われている:
bedの母音は/e/とも/ɛ/とも書かれます rの扱いが違う:carは米/kɑːr/、英/kɑː/(イギリス英語では語末のrを発音しません)
対処はシンプルです。どちらの発音を目標にするかを最初に決めて、辞書を1つに統一してください。混ぜると、自分の中の基準が定まりません。
日本のビジネス環境ではアメリカ英語が基準になることが多いため、迷ったらそちらに揃えるのが実務的です。
記号が読めるようになると、機能語が schwa に潰れて消える弱形も聞き分けられるようになります。語別の整理は英語の弱形(機能語)を聞き取る方法にまとめています。
まとめ
英語の発音記号の読み方は、次の手順に集約されます。
- 発音記号は音の名前ではなく、口の動きの指示書である
- 子音は「どこで・どうやって・声を出すか」の3項目を指定している
- 母音は「舌の高さ・舌の前後・唇の形」を指定している
- 読むときはカタカナに変換しない。変換した時点で指定が全部消える
- 音を出す前に口の形だけ先に作って止める
- 44個すべてではなく、日本語に無い区別から覚える(
/ə//r/ /l//æ ʌ ɑː//θ ð/)
一覧表を何度眺めても発音が変わらなかったのは、記憶力の問題ではありません。記号を音の名前として扱っていたからです。指示書として読み直せば、記号は使える道具になります。
自分の発音が、記号どおりに出ているか確かめたい方へ
発音記号を読めるようになっても、自分が出している音が指定どおりかは、自分では判定できません。
理由は構造的です。自分の声は、外から聞こえる音と、骨を通って聞こえる音が混ざって聞こえています。さらに、日本語話者の耳は日本語の音のカテゴリで音を分類するため、/æ/ と /ʌ/ を自分で出し分けたつもりでも、同じ音になっていることに気づけません。
必要なのは、外部からの判定です。自分の音を録って聞き比べる方法は英語発音のチェック方法にまとめています。
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FAQ
Q. 発音記号は全部覚えないといけませんか?
A. 必要ありません。日本語にある音は、記号を読まなくても発音できます。優先すべきは日本語に無い区別で、/ə/ /r/ /l/ /æ ʌ ɑː/ /θ ð/ /iː ɪ/ の6グループです。ここを押さえると、通じにくさの大半が説明できます。
Q. IPAとは何ですか。辞書の記号と同じものですか?
A. IPA(国際音声記号)は、世界の言語の音を書き表すための記号体系です。英語辞書の発音記号は、IPAをもとに英語用に簡略化したものが多く使われています。細部の表記は辞書ごとに異なりますが、読み方の原理は同じです。
Q. 発音記号を覚えれば、発音は良くなりますか?
A. 記号を読めることは、目標の音を正しく理解するための前提です。理解しただけでは音は出ません。口を動かす練習と、出した音を外から判定する工程が別に必要です。記号は地図であって、歩行ではありません。
Q. カタカナで覚えてはいけない、というのは徹底すべきですか?
A. 記号を学ぶ段階では徹底してください。カタカナは日本語の音のカテゴリなので、変換した瞬間に区別が消えます。ただし、すでに知っている単語の意味を思い出すためにカタカナを使うのは問題ありません。音を作るときに使わない、という線引きです。
Q. /ɪ/ と /iː/ は、長さで区別してはいけないのですか?
A. 長さも違いますが、長さだけで区別すると速い発話で崩れます。実際の会話では、強勢の位置によって長さは変動します。口の緊張と舌の位置で区別しておくと、速度が上がっても保たれます。
Q. 発音記号が読めるようになるまで、どのくらいかかりますか?
A. 優先度の高い6グループに絞れば、読み方の理解自体は数時間で終わります。時間がかかるのは、記号どおりに口を動かせるようになる工程です。そちらは記号の学習ではなく、発音練習の領域になります。
参考情報
- 英語の音素数を44とする数え方は、イギリス英語(RP)を基準とした一般的な区分によります。アメリカ英語では母音の数え方が変わるため、総数も変わります
- 44の音素を1つずつ確認・練習できる記事は 英語の44音素 を参照
- 発音が通じない原因の切り分けは 英語の発音が通じない理由 にまとめています