社会人の英語多読、続く進め方|可処分時間から語数を逆算する3ステップ
「多読は易しい本を辞書なしで読めばいいと聞いて始めたが、1週間で止まった」「通勤で読もうと決めたのに、気づけば本を開かなくなっていた」
社会人の多読が止まる原因は、意志の弱さではありません。始める前に決めておくべき3つの設計──素材のレベル判定・返り読みが起きたときの処理・可処分時間からの分量設計──のどれかが無いまま始めているからです。
この記事では、多読を始めると決めた社会人が、自分の生活時間の中で多読を回し続けるための手順を扱います。多読がそもそも自分に効くのかという条件の話は、姉妹記事「英語の多読に効果はあるのか」に置き、本記事では繰り返しません。
結論|社会人の多読が続くかは、始める前の3つの設計で決まる
先に結論を述べます。社会人の多読が続くかどうかは、読み始めてからの努力ではなく、始める前の次の3つの設計で決まります。
- 設計①:最初の1冊を「既知語率」で選ぶ ── TOEICの点数帯ではなく、100語に知らない語が何語あるかで決める
- 設計②:返り読みが起きたら、その場で止める処理を決めておく ── 「辞書を引かない」だけでは返り読みは止まらない
- 設計③:可処分時間から「今週の語数・冊数」を逆算する ── 1日何分ではなく、週に何語読むかを先に数字にする
多読の解説の多くは、素材の選び方(=設計①)と、三原則(辞書を引かない・分からないところは飛ばす・つまらなくなったらやめる)で終わります。社会人が止まるのは、②と③が無いときです。

多読の定義と、効く条件(既知語率・返り読みの2条件)の判定は「英語の多読に効果はあるのか」に譲ります。本記事は、条件を満たした人が「どう回すか」だけを担当します。
設計①|最初の1冊は「既知語率」で選ぶ(TOEIC帯ではなく)
まず理解したいのは、多読の素材のレベルは、自分の点数帯ではなく、その素材の本文で決まるということです。
TOEICの点数帯で選ぶ方法には欠点があります。同じ点数帯でも、知っている語はジャンルごとに違うため、点数は目の前の1冊が読めるかどうかを教えてくれません。
判定は、その素材の本文で直接行います。手順は次の3つです。
- 本文の途中から100語ぶんを読む。 冒頭は状況説明で語が偏るため、真ん中あたりを選びます。100語は、段階別読み物なら片側1ページが目安です
- 意味が出てこなかった語を数える。 「見たことはあるが意味が出ない語」も未知語に数えます。推測できたかどうかは問いません
- 同じことを別の箇所でもう1回行い、多いほうの数で判定する。 1か所だけでは偏りが出ます
判定の基準は、姉妹記事で示した数字と同じです。知らない語が100語中2語以下なら多読の素材、6語以上ならその素材は多読ではなく精読の対象です(95%を下回る水準)。3〜4語は境界です。精読を併用しながら、多読の素材として使ってください。
ここで重要なのは、最初の1冊は「2語以下」よりさらに易しい側、知らない語が0〜1語の素材から始めることです。理由はシンプルです。最初の数週間は、設計②の処理と設計③の記録を同時に始めるため、語彙以外の負荷がかかります。語彙の負荷をほぼゼロにしておき、設計③の切り替え基準で上げていくのが、続く順序です。
素材は種類で選びます。既知語率が高くなりやすいのは、語彙が段階ごとに統制されている段階別読み物、英字ニュースの学習者向け版、自分の業務に近い分野の平易な解説文の3種類です。同じ既知語率なら、内容に興味が持てるほうを選んでください。興味のない素材では注意が内容に向きません。既知語率を自分で判定できれば、書名の一覧は要りません。
設計②|返り読みが起きたら、その場で止める処理をする
既知語率が足りている素材でも、読んでいて疲れる人がいます。文末まで目を走らせてから前に戻り、日本語の語順に組み替えて意味を取る「返り読み」を、1文ごとに行っている人です。
三原則の「辞書を引かない」は語彙の負荷を下げる原則で、返り読みには効きません。返り読みは意志でやめられる癖ではなく、意味のかたまり(チャンク)ごとに前から意味を確定する処理が未訓練なために起きます。処理を育てる訓練は「チャンクリーディングとは」と「スラッシュリーディングのやり方」で扱っており、本記事では多読の最中に返り読みが起きたときに、その場で何をするかだけを決めます。

処理の手順は次の4つです。
- 視線が左に戻った瞬間を、返り読みの合図として捉える。 気づくことが処理の起点です
- 文頭には戻らず、戻った位置に区切りを1つ置いて、そこから前へ進む。 文全体を組み直さず、今いる位置から意味を積み直します
- 意味が粗くても、次の区切りへ進む。 整った訳文は作らず、「だいたいこういう意味」で確定して前へ出ます
- 同じ文で2回戻ったら、その文は保留して段落の終わりまで前進する。 段落を読み終えてから、保留した文の意味が文脈で埋まっているかを確認します
たとえば、次の1文で返り読みが起きたとします。
【English】 The manager who joined our team last month has already changed the way we run our weekly meetings.
【日本語訳】 先月チームに加わったマネージャーが、すでに週次会議の進め方を変えた。
The manager who joined our team last month まで読んで has already changed が来たところで The manager に戻ったなら、返り読みです。文頭に戻らず、has already changed の手前に区切りを置いて前へ進みます。
The manager who joined our team last month / has already changed / the way we run our weekly meetings. (先月チームに加わったマネージャーが/すでに変えた/週次会議の進め方を)
「マネージャーが」「変えた」「会議の進め方を」と積み上げれば、意味は前から確定します。日本語として整っていなくてかまいません。
もう1つ、素材の側の判定を加えます。100語(段階別読み物の片側1ページ)あたり保留の文が3つ以上出るなら、既知語率が足りていても、文の構造の負荷が今の処理を超えていると The Past では判断しています。 1段易しい素材に下げてください。多読の時間は処理を「使う」時間で、「作る」時間ではありません。処理を作る訓練は、上の2記事で別枠に置きます。
設計③|可処分時間から「今週の語数・冊数」を逆算する
ここが本記事の主軸です。社会人の多読が続かない最大の原因は、続く分量を超えた計画を立てることにあります。 「毎日30分読む」という計画は理想値で立てているため、読めない日が続いた時点で崩れます。The Past が採るのは、「社会人の英語学習が続かない理由」で示した可処分時間の設計の型を多読に当て、可処分時間の実数から週の語数と冊数を逆算する方法です。手順は5つあります。
手順1:可処分時間を実数で棚卸しする
「平日は30分読むつもり」という理想値ではなく、先週、実際に読めた(読めたはずの)時間を数えます。枠は、通勤の片道・昼休みの後半・就寝前のように、毎回同じ場所と時間に固定します。1回の長さは注意が続く15〜20分を目安にし、週に何回その枠が取れるかを数えます。
手順2:1回で読める語数を実測する
設計①で選んだ素材を、1回の枠(たとえば15分)で実際に読み、その間に読んだ語数を数えます。段階別読み物の多くは総語数が表示されているため、読んだページの割合から出せます。表示が無い素材は、1ページの語数にページ数を掛けます。他人の数字ではなく、自分の素材と処理速度で出した数字だけを使います。
手順3:週の語数と冊数を逆算する
計算は2本だけです。
- 週の語数 = 1回の語数 × 週の回数
- 週の冊数 = 週の語数 ÷ 1冊の総語数
仮の数字で確認します。通勤の片道15分を平日5回取れ、15分で400語読める人なら、週の語数は2,000語です。総語数4,000語の段階別読み物なら、2週間で1冊が「続く分量」です。「少ない」と感じるなら、その感覚がこれまで続かなかった計画の正体です。続く分量は、意欲ではなく可処分時間と処理速度で決まります。
手順4:1回ごとに4項目を記録する
記録は達成感のためではなく、手順5の切り替えを判断する材料です。
| 項目 | 記録する内容 | 何を判断する材料か |
|---|---|---|
| 語数 | その回に読んだ語数(累計も残す) | 週の語数が計画どおりか |
| 戻った回数 | 設計②の処理を使った回数・保留した文の数 | 素材の構造負荷が合っているか |
| 初回理解度 | 読み終えて内容を3つ言えたか(3つ・2つ・1つ以下) | 素材を上げるか下げるか |
| 枠の実行 | 予定した枠で読めたか(○・△・×) | 時間の設計を変えるか |
記録は1回1分で済む形にします。項目を増やすと記録が止まり、切り替えの判断ができなくなります。
手順5:切り替えの基準を先に決めておく
切り替えは「なんとなく飽きたから」ではなく、記録の数字で行います。
| 記録に出るサイン | 崩れている設計 | 切り替え |
|---|---|---|
| 初回理解度「3つ」(9割相当)が4週続いた | 素材が易しくなった | 設計①の判定で1段上の素材へ |
| 初回理解度が「1つ以下」の回が続く/保留が100語(1ページ)に3つ以上 | 素材が処理を超えている | 1段易しい素材へ戻す |
| 枠の実行が2週続けて計画の半分以下 | 時間の設計が生活に合っていない | 1回の長さを半分にし、回数は維持する |
| 語数は計画どおりだが戻った回数が減らない | 処理の形が変わっていない | 多読とは別枠でチャンク処理の訓練を入れる |
3行目に注目してください。読めない週が続いたときに減らすのは回数ではなく、1回の長さです。回数を減らすと枠そのものが消え、再開の手がかりが無くなります。枠が残っていれば、可処分時間が戻ったときにそのまま長さを戻せます。長さを半分にしたら、その回でCを測り直し、Dを置き直してください。

記事内トレーニング|自分の可処分時間から今週の目標語数を出す
ここまでの設計③を、自分の数字で埋めます。手順2の実測を除けば5分で終わります。
| 項目 | 出し方 | 記入例 |
|---|---|---|
| A. 週の回数 | 先週、実際に読めた(読めたはずの)枠の数 | 5回 |
| B. 1回の長さ | 注意が続く長さ(15〜20分が目安) | 15分 |
| C. 1回の語数 | Bの長さで実際に読んで数える | 400語 |
| D. 週の語数 | A × C | 2,000語 |
| E. 週の冊数 | D ÷ 1冊の総語数 | 0.5冊 |
A〜Eを、自分の数字でメモしてください。
Dが今週の目標語数、Eが今週の冊数です。この数字を1週間守り、記録の4項目をつけてから、手順5の基準で切り替えます。 記入例は仮の数字で、あなたの数字はCの実測でしか出ません。
Dを増やしたくなったら、Aは可処分時間が変わったときだけ動かします。 素材を上げるとCは一度下がり、そこから伸びとして戻ってきます。多読で伸びるのは読む処理の速さで、その伸びはCの数字に現れます。
続かなくなったときの立て直し方
止まったときは意志を立て直すのではなく、3つの設計のどれが崩れたかを特定して、その設計だけを直します。
| 止まり方 | 崩れた設計 | 立て直し |
|---|---|---|
| 本を開いても内容が頭に入らず、つまらない | 設計①(既知語率か興味) | 100語の判定をやり直す。2語以下でもつまらないなら種類を変える |
| 読み終えると疲れていて、次の回が億劫になる | 設計②(返り読みの処理) | 保留の数を記録に出す。100語(1ページ)で3つ以上なら素材を下げる |
| 読む時間そのものが取れなくなった | 設計③(時間の設計) | 回数を残して1回の長さを半分にする。枠を消さない |
| 3つとも当てはまらないのに進まない | 多読の前提条件 | 既知語率と返り読みの2条件に戻って判定し直す |
4行目の人は、進め方ではなく多読が効く条件で詰まっています。「英語の多読に効果はあるのか」の記事内チェックで判定し直してください。2条件を満たしているのに読めない場合は、原因が多読の外にあります。「英文が読めない原因」で知識と処理のどちらが足りないかを切り分けてください。
よくある質問
Q. 三原則(辞書を引かない・分からないところは飛ばす・つまらなくなったらやめる)は守るべきですか?
A. 三原則が成り立つ条件(既知語率が足りた素材であること)は「英語の多読に効果はあるのか」で扱っています。本記事では、「つまらなくなったらやめる」を、設計③の記録(初回理解度・枠の実行)で理由を切り分けてから使う運用だけを担当します。
Q. 精読と多読はどちらを先にやるべきですか?
A. 設計②の保留が100語(1ページ)に3つ以上出るうちは、精読が先です。精読を「前から戻らず処理できる」まで運ぶ工程は「英語の精読のやり方」で扱っています。
Q. Kindleや無料サイトの素材で読んでもいいですか?
A. 媒体は問いません。判断基準は3つで、①本文の100語で既知語率の判定ができる、②総語数が分かるか1ページの語数から計算できる、③枠の途中で止めて次の回に同じ場所から再開できる、です。満たせるなら、紙でも電子でも、有料でも無料でも構いません。語数が分からない素材は設計③の記録が立たないため、最初の数か月は避けてください。
Q. 多読でTOEICの点は上がりますか?
A. 多読で伸びることが確認されているのは、読む速さと読解力です。リーディングで時間が足りずに最後まで解けないことが失点の原因なら、その部分は多読の効く範囲に入ります。語彙や文法の知識が足りずに失点しているなら、多読は新しい語を覚える手段としては効率が悪く、別の工程が要ります。失点の原因が読む処理の側にあるかどうかで決まります。
まとめ|続くかどうかは、始める前の3つの設計で決まる
- 社会人の多読が止まるのは意志の問題ではなく、レベル判定・返り読みの処理・分量設計のどれかが無いまま始めているため
- 設計①:素材は点数帯ではなく、本文100語中の知らない語の数で選ぶ。2語以下が多読の素材
- 設計②:返り読みが起きたら文頭に戻らず、区切りを置いて前へ進む。100語(1ページ)に保留が3つ以上なら素材を下げる
- 設計③:可処分時間と1回の語数の実測から、週の語数と冊数を逆算する。切り替えは記録の数字で行う
- 止まったときは、3つの設計のどれが崩れたかを特定して、その設計だけを直す
多読は、始めてから頑張る方法ではなく、始める前に設計を済ませておけば、生活時間の中で回り続ける方法です。今週の語数を、自分の実測から出してください。
自分の可処分時間に合う設計を、一人では組みきれない方へ
記事内トレーニングで数字は出せたが、それが目標に対して足りているのか、多読と他の技能への時間配分が正しいのか、一人では判断しきれない方は少なくありません。可処分時間が小さいほど、配分の誤りがそのまま停滞になるからです。
The Past の公式LINEでは、英語力を能力単位に分解し、限られた時間を効く練習にだけ使うための学習情報と特典をお届けしています。多読に何割の時間を振るかを決める材料として使ってください。
参考情報・出典
- Hu, M., & Nation, I. S. P. (2000). Unknown vocabulary density and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 13(1), 403–430.(辞書なしの十分な読解に必要な既知語率98%)
- Laufer, B., & Ravenhorst-Kalovski, G. C. (2010). Lexical threshold revisited: Lexical text coverage, learners’ vocabulary size and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 22(1), 15–30.(既知語率95%を最低ライン、98%を望ましい水準とする)
- Day, R. R., & Bamford, J. (1998). Extensive Reading in the Second Language Classroom. Cambridge University Press.(多読の素材を学習者の力の内側「i−1」に置く考え方)
- 「100語中2語以下/6語以上」(95%を下回る水準)の判定は、上記の98%・95%を100語に換算した運用基準です。素材選びや記録・切り替えに使う数値(最初の1冊の目安・1回の時間・4週の判定・保留や枠の基準)も The Past の指導上の運用基準であり、研究で示された閾値ではありません
- 記事内の計算例(15分で400語・週5回・総語数4,000語)は手順を示すための仮の数字で、読者自身の実測に置き換えて使うものです
- 本記事の英文と日本語訳は The Past が説明用に作成したオリジナルです