ChatGPTで英会話練習はできるのか|AIが鍛えられる力と、鍛えられない力

記事の執筆者 メイソン(株式会社The Past 代表 / 椿祐輔)

VERSANT満点(90点)、CEFR C2レベルの英語力を有する。フィリピンの語学学校で10年以上にわたりカリキュラムと教材開発に従事し、述べ5,000人以上の多国籍な英語学習者(日本、中国、台湾、ベトナム、ロシア等)の学習をサポート。言語学と音声学に精通しており、現在は株式会社The Pastの代表取締役、カリキュラム開発者として、グローバルな英語教育を推進している。

「ChatGPTで英会話の練習ができる」という話を、一度は目にしたことがあると思います。24時間つきあってくれて、間違いを笑われることもなく、料金もかからない。条件だけ見れば、これ以上の練習相手はいないように思えます。

しかし、実際に何週間か続けた人から返ってくる感想は、だいたい同じです。「英語を書く力は上がった気がする。でも、いざ人と話すと、やっぱり出てこない」。

この違和感は、気のせいではありません。ChatGPTは英会話の一部の工程を強力に代替しますが、別の工程はほとんど代替しません。 どこが代替されて、どこが手つかずのまま残るのかを知らずに使うと、「練習しているのに話せない」状態が続きます。

この記事では、話すという行為を3つのステップに分解し、AIがどこに効いてどこに効かないかを構造で示します。そのうえで、ChatGPTを使うなら何をどう回すべきかまで具体化します。

結論:AIは「言葉を作る工程」に効き、「音にする工程」には効かない

先に結論を示します。

ChatGPTは、言いたいことを英語の文に組み立てる工程——The Past のスピーキング3ステップでいう「概念化」と「文章化」——には、非常に効きます。ここは反復と即時フィードバックが効く領域で、AIの得意分野そのものです。

一方で、組み立てた文を口から音として出す工程——「音声化」——には、ほとんど効きません。テキストでやりとりしている限り、口も舌も動いていないからです。音声モードを使っても、後述する理由でこの差は完全には埋まりません。

スピーキングの3工程(概念化・文章化・音声化)に対し、AIが効く範囲と効かない範囲を色分けした図

「練習しているのに話せない」の正体は、これです。書く練習を積んでいるのに、話せるようになることを期待しているという、工程のすり替えが起きています。

話すという行為は、3つの工程でできている

The Past では、スピーキングを次の3ステップで捉えます。

ステップ やっていること 詰まったときの症状
① 概念化 何を言うかを決める 日本語ですら答えが浮かばない
② 文章化 それを英語の文に組み立てる 言いたいことはあるが英語にならない
③ 音声化 組み立てた文を音として出す 頭の中には文があるのに口が動かない

3つは順番に働きます。①が決まらなければ②に進めず、②ができても③が遅ければ会話は止まります。

重要なのは、この3つが別々の能力だという点です。②が得意な人(読み書きは得意)が③で詰まるのは普通に起こります。TOEICの点は高いのに話せない、という現象の中身はここです(TOEIC高得点でも話せない本当の理由)。

ChatGPTが強いのは②「文章化」

ここは、率直に言って非常に優秀です。

言い換えの引き出しが一瞬で増える。 「もっと自然な言い方は?」と聞けば、5通り出てきます。人間の講師なら1〜2通りで次の話題に移るところを、AIは疲れずに何度でも出します。

自分の英文の弱点が構造で返ってくる。 「この文の不自然な点を、文法・語彙・語順に分けて説明して」と指定すれば、感覚ではなく分類で返ってきます。何を直せばいいかが特定できます。

恥ずかしさのコストがゼロ。 間違いを100回さらしても何も起きません。心理的な抵抗が、練習量を減らす最大の要因である人には、これだけで価値があります。

①「概念化」にも、間接的に効く

「何を言えばいいか浮かばない」タイプの詰まりにも、AIは使えます。ただし使い方に条件があります。

AIに答えを出させると、概念化の練習にはなりません。 「この質問への回答を作って」と頼めば、それは自分が考える工程をAIに外注しただけです。

効くのは、自分で日本語で答えを出してから渡す使い方です。「この日本語の答えを、英語らしい構成に直して」と頼めば、①は自分でやったまま②の補助だけ受けられます。

ChatGPTが弱いのは③「音声化」

ここが本題です。

口と舌は、テキストでは動かない

音声化は運動です。英語の音を出すには、日本語では使わない舌の位置、息の量、喉の使い方を、意識せずに再現できる状態まで持っていく必要があります。これは知識ではなく身体の技能で、実際に声を出した回数でしか伸びません。

キーボードで英文を打っている限り、この回数はゼロのままです。②を1000回やっても③は0回——これが「書けるのに話せない」の構造です。

音声モードを使っても、差は完全には埋まらない

「音声で会話すればいいのでは」と思われるかもしれません。実際、音声でやりとりすれば③の回数は増えます。ここは素直に有効です。

ただし、限界が2つあります。

ひとつは、AIが聞き取れてしまうこと。 音声認識は文脈から補正するため、多少発音がずれていても正しく認識されます。会話は成立し、AIは自然に返答します。通じた、と学習者は判断します。 しかし人間相手の会話では、同じ発音で聞き返される。ここでズレが表面化します。

もうひとつは、指摘が返ってこないこと。 AIは「今の r の音は舌が奥に入りすぎています」とは言いません。会話を続けることが目的の設計だからです。誤った音は指摘されないまま反復され、定着していきます。これが化石化と呼ばれる現象で、独学の発音練習で最も避けたい状態です(シャドーイングは意味ないのかで、同じ構造を扱っています)。

AIの音声モードは発話回数を増やせるが、音声認識の補正と指摘の不在により精度は上がりにくいことを示した図

つまり音声モードは、③の回数は増やせるが、③の精度は上げにくい。回数と精度は別物です。

それでもChatGPTを使うなら|工程を分けて回す

ここまでを踏まえると、使い方は決まります。ChatGPTを「会話相手」ではなく「②の訓練装置」として使うことです。

手順:1日15分の型

  1. 日本語で言いたいことを決める(①・2分) — AIに頼らない。ここを外注すると概念化が育たない
  2. 自力で英語にする(②・5分) — 辞書も可。ただし先にAIに聞かない
  3. AIに構造で添削させる(②・3分) — 「文法・語彙・語順に分けて、不自然な点を指摘して。修正版も出して」
  4. 修正版を声に出して10回読む(③・5分) — ここを飛ばすと、この記事の指摘がそのまま自分に返ってきます

3までで止めると、書く練習にしかなりません。4があって初めてスピーキングの練習になります。

添削で使うプロンプト

そのままコピーして使えます。

あなたは英語教師です。以下の英文について、次の3点に分けて指摘してください。 1. 文法(誤りと、なぜ誤りか) 2. 語彙(不自然な語と、より自然な代替を3つ) 3. 語順・情報構造(英語として自然な並びとの差) そのうえで修正版を1つ提示してください。 修正版は、元の文の意味を変えず、口に出して言いやすい長さにしてください。 英文: [ここに自分の英文]

「口に出して言いやすい長さに」を入れているのは、AIが放っておくと書き言葉として整った長文を返すためです。会話で使えない文を練習しても意味がありません。

記事内トレーニング|②と③を分けて体験する

ここまでの構造を、5分で体感します。

Practice 1:②文章化を自力でやる(2分)

次の日本語を、辞書を使わずに英語にしてください。制限時間は1文30秒です。

1. 前回の打ち合わせの内容を、簡単に確認させてください。 2. その案は良いと思いますが、コストが読めないのが気になります。 3. 来週までに一度たたき台を作って、共有します。

出てこなかった箇所が、あなたの②のボトルネックです。単語が出ないのか、語順が組めないのかを区別してください。

Practice 2:③音声化に落とす(3分)

上で作った英文(または下の参考解答)を、10回声に出してください。7回目あたりから、考えずに口が動き始めます。この感覚が③です。

1. Could you quickly recap what we discussed last time? 2. I like the idea, but I'm not sure we can predict the cost. 3. I'll put together a draft by next week and share it with you.

黙読では③は動きません。声に出した回数だけが③を作ります。

まとめ

ChatGPTで英会話の練習はできるのか。答えは「半分できる」です。

  • ②文章化:非常に効く。言い換えの量、指摘の構造化、心理的コストの低さで、人間の講師より優れる面がある
  • ①概念化:条件つきで効く。自分で答えを出してから渡す使い方に限る
  • ③音声化:ほとんど効かない。音声モードで回数は増えるが、誤った音が指摘されず定着するリスクが残る

だから、ChatGPTは「英会話の練習相手」ではなく「書く工程の訓練装置」として位置づけるのが正確です。そのうえで、音声化は自分で声に出す時間を別に取る。この分担ができていれば、AIは強力な道具になります。

発話の瞬発力そのものを鍛える方法は英語の独り言トレーニング、とっさに出てこない原因の分解は英語がとっさに出てこない原因と対策にまとめています。

自分がどのステップで止まっているか知りたい方へ

3ステップのうち、自分がどこで詰まっているかは、自分では判定しにくいという問題があります。②で詰まっている人は「単語力が足りない」と考えがちですが、実際には語順が組めていないことが多い。③で詰まっている人は「もっと話す量を増やそう」としますが、必要なのは量ではなく音の作り直しです。

判定を誤ると、必要のない練習に時間を使い続けることになります。

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FAQ

Q. ChatGPTの音声モードだけで英会話は上達しますか?

A. 回数は増えるので、まったく上達しないわけではありません。ただし音声認識が発音のズレを補正して聞き取ってしまうため、通じた感覚と実際の通じやすさがずれます。また誤った音への指摘が返ってこないため、定着のリスクがあります。音声モードは③の量を稼ぐ手段と位置づけ、精度は別に確保するのが安全です。

Q. オンライン英会話とどちらが良いですか?

A. 鍛えられる工程が違うので、比較というより使い分けです。ChatGPTは②の反復に強く、人間の講師は③に対する反応(聞き返される・言い直される)が得られます。詳しくは英語コーチング・独学・オンライン英会話・留学の比較で扱っています。

Q. 初心者でもChatGPTでの練習は有効ですか?

A. ②の補助としては有効です。ただし初心者ほど①(何を言うか)でも詰まりやすく、AIに答えごと作らせてしまいがちです。日本語で答えを出してから渡すという手順を守れるかが分かれ目になります。

Q. 無料版と有料版で違いはありますか?

A. 添削の精度と音声モードの利用条件に差がありますが、本記事の結論——②に効き③に効きにくい——は変わりません。プランを上げても、声を出す回数が増えるわけではないためです。

参考情報・出典

  • 本記事のスピーキング3ステップは、The Past のカリキュラム設計(概念化/文章化/音声化)に基づく
  • 化石化(fossilization)については シャドーイングは意味ないのか で研究知見とあわせて解説