英語は喉から出す|日本語と違う発声で声がこもる問題を直す
日本語で話しているときは、普通に声が通る。それなのに英語になった途端、声がこもる。小さくなる。オンライン会議では “Sorry?” と聞き返される。この差に心当たりがあるなら、原因はあなたの声質でも、性格でも、努力不足でもありません。
結論から言います。英語で声がこもるのは、日本語の発声の設定のまま、英語を話しているからです。
日本語と英語では、声の出し方そのものが違います。日本語は口先の狭い空間で音を作って成立する言語です。一方英語は、喉を大きく開き、多くの息を声帯に当てて、口の奥で響きを作る言語です。日本語の設定のまま英語を話せば、音を作る空間が狭いままなので、息が乗らず、響きが前に詰まって、こもった声になります。
だから直すべきは、個々の発音の口の形より先に、声を作る場所と息の使い方です。やることは3つに集約されます。喉を大きく開く。息をしっかり使う。響きを口の前ではなく奥に置く。この記事では、日本語と英語の発声の違いを構造から説明し、声がこもる原因を分解した上で、喉から声を出す英語発声の作り方を、5〜10分の記事内トレーニング付きで解説します。
結論 ― 直すのは口先ではなく「発声の設定」
最初に、この記事の結論を整理します。
- 声がこもる原因は、喉が閉じたまま・息が少ないまま・響きが口の前方に詰まったまま英語を話していることにあります。つまり日本語用の発声設定の持ち越しです。
- 直し方は、①喉をリラックスさせて大きく開く ②息をしっかり使う ③響きを口の奥で作る、の3点です。The PAST が発音指導で使っている喉発声のポイントは、この3つに集約されます。
- ただし、発声だけで発音のすべてが解決するわけではありません。 発声は「声を作る層」であり、その上に「音を作る層(母音・子音)」「文を作る層(強勢・リズム・イントネーション)」が積み上がります。この記事が扱うのは、一番下の層です。
3点目をあえて結論に含めたのには理由があります。このテーマの周辺には「喉から声を出せば発音もリスニングも一気に解決する」という説明が少なくありません。そうは言いません。発声は土台です。土台を直すと、その上に乗る母音・子音がクリアに変わり、練習の効率が上がります。しかし土台は、あくまで土台です。
もう一つ、ゴールの置き方も先に確認します。目指すのは「ネイティブと同じ声になること」ではありません。第二言語の発音研究では、学習のゴールを「ネイティブらしさ」ではなく「明瞭に伝わること(intelligibility)」に置くべきだと整理されています(Derwing & Munro 2005, TESOL Quarterly)。明示的な発音指導を受けた学習者は、明瞭性と話すことへの自信が向上する傾向も示唆されています。この記事のゴールも同じです。こもらず、明瞭に届く声を作ること。 そのための最初の一手が、発声の設定変更です。

日本語と英語では「発声の基本設定」が違う
なぜ日本語の声のまま英語を話すと、こもるのか。ここを構造で説明します。
まず理解したいのは、言語には、それぞれ「調音の基本設定」があるということです。音声学では古くから、言語ごとに舌・唇・喉といった発声器官の習慣的な構えが異なることが記述されてきました(Honikman 1964, “Articulatory Settings”)。個々の音を出す前の、いわばデフォルトの構えが、言語によって違うのです。
この枠組みで日本語と英語を比べると、The PAST の発音指導では次のように整理しています。
| 観点 | 日本語 | 英語 |
|---|---|---|
| 喉の使い方 | あまり使わない(口先で音を作る) | 喉の奥から声を出す |
| 声帯の状態 | 緊張しやすい | リラックスして緩んでいる |
| 喉の開き | 狭まっている | 大きく開いている |
| 響きの位置 | 口の前方 | 口の奥 |
「こんにちは」と “Hello” を続けて言ってみると、違いが体感できます。「こんにちは」は口の前のほうだけで完結します。一方 “Hello” を英語らしく言おうとすると、口の奥に空間がないと、音が平たく潰れます。
日本語は、狭い空間で音を作っても十分に成立する言語です。だから日本語話者の発声設定は「喉を使わない・狭い・前方」に最適化されています。この設定は日本語には正解です。しかし英語に持ち込むと、息が乗らず、響く空間がなく、音が口の手前で詰まります。これが「声がこもる」の正体です。
声がこもる原因を3つに分解する
「こもる」という感覚を、能力単位に分解します。自分がどれに当てはまるかを確認してください。
- ① 喉の開きが足りない ― 声を出すとき、喉の奥が日本語のときと同じ狭さのまま。音を作る空間そのものがない状態です。長い英文を話すと喉が締まって苦しくなる人は、ここに該当します。
- ② 息の量が足りない ― 英語は日本語より多くの息を声帯に当てて音を作ります。息が少ないと、音の芯が細くなり、子音の鋭さも出ません。マイク越しに「声が遠い」と言われる人は、ここが弱いケースが多いです。
- ③ 響きの位置が前に詰まっている ― 声を口の前方に「飛ばそう」として、かえって響きが浅くなっている状態。頑張って話しているのに平たく聞こえる人は、響きの位置の問題です。
3つは連動しています。喉が開けば息の通り道ができ、息が増えれば奥で響かせる材料ができます。だから直す順番も、①喉の開き→②息→③響き、の順が合理的です。
発声は「発音の下の層」にある
ここで、発声が発音学習全体のどこに位置するかを整理します。
- 発声 ― 声を作る層。喉の開き・息・響き。この記事の対象。
- 音素 ― 音を作る層。母音・子音の作り分け。
- 韻律 ― 文を作る層。強勢・リズム・イントネーション。
この3層は、下から積み上がります。The PAST のスピーキング3ステップ(概念化→文章化→音声化)でいえば、発声は最終段「音声化」の物理的な土台にあたります。土台の空間が狭いままでは、口の形を正しく作っても、音がクリアに乗りません。
もう一つ、発声を整えることには副次的な効果があります。The PAST のリスニング指導では、発音能力とリスニング能力は相関する、つまり正しく出せる音は正しく認識しやすい、と整理しています。声の出し方が英語の設定に変わると、英語の音の「作られ方」を身体で知ることになり、聞き取りの側にも波及が期待できます。ただしこれは副産物です。主目的はあくまで、こもらない声を作ることです。

よくある失敗 ― 音量を上げても、声を低くしても、こもりは直らない
声がこもる問題に対して、多くの人が試して、うまくいかない対処が3つあります。それぞれ「なぜ効かないか」と「本当に必要なこと」をセットで見ていきます。
① 声を張り上げて「音量」で解決しようとする
聞き返されるから、大きな声で話す。一見合理的ですが、効きません。
理由はシンプルです。こもりの原因は音量ではなく、響きの不足だからです。日本語設定の狭い喉のまま音量を上げると、詰まった音が大きくなるだけで、明瞭さは変わりません。しかも緊張した声帯に無理をかけるので、長い会議では喉が痛くなります。
必要なのは、音量を上げることではなく、音を作る空間を広げることです。喉が開いて響きが乗れば、張り上げなくても声は通ります。
② 「喉から出せばすべて解決する」と誤解する/声を低くすればいいと誤解する
「英語喉」という言葉を聞いたことがある人も多いはずです。英語の発声をめぐっては様々な説がありますが、The PAST の整理では、実際に重要なのは「喉を大きく開き、リラックスした状態で音を響かせる」という一点です。
ここで2つの誤解を外しておきます。
1つ目は、喉発声を魔法として扱う誤解です。前述のとおり、発声は3層の一番下です。喉の設定を変えても、thとsの区別や、strengthの子音連続や、文の強勢は、別の層の練習として残ります。発声で解決する範囲(声のこもり・通り・響き)と、解決しない範囲(音素・韻律)を分けて考えてください。
2つ目は、「低い声で話すこと=英語の発声」という誤解です。英語話者の声が低く聞こえるのは、開いた喉の奥で響く音の質感であって、音程を下げているからではありません。条件は開きとリラックスです。声の高さを操作する必要はありません。
③ 発声を飛ばして、音素の矯正だけを積む
発音記号を覚え、口の形を練習してきた。それなのに、通じ方が変わらない。このパターンの典型は、音素の層だけを練習して、その下の発声の層が手つかずのままになっているケースです。
口の形は音の「設計図」ですが、設計図どおりの音を出すには、十分な息と響きの空間という「材料」が要ります。狭い喉と少ない息の上に正しい口の形を乗せても、出てくる音はカタカナ寄りのまま潰れます。
順番を入れ替えてください。まず発声の設定を作り、その上で音素の練習に進む。音素の層のトレーニングには、全44音素をAI採点付きで練習できる発音記号の練習アプリや、日本人特有の音の癖を直す順番を整理したカタカナ英語の直し方の記事が使えます。発声はその手前の一段です。
The PAST式 ― 喉発声を作る3ポイントと毎日5分の練習
ここからは、実際に喉発声を作る手順です。The PAST の発音指導で使っている方法をそのまま示します。
設定の作り方 ― 3つのポイント
ポイント1: 喉をリラックスさせ、大きく開く。 基準になる動作は「あくび」です。あくびをすると、喉の奥が自然に大きく開き、声帯が緩みます。これが英語を話すときの喉のデフォルトです。演技のあくびで構いません。まずこの感覚を身体で覚えます。
ポイント2: 息をしっかり使う。 英語は、日本語より多くの息を声帯に当てて音を作ります。姿勢を正し(猫背やあごの引きすぎは声の通り道を塞ぎます)、腹式呼吸で、吸ったときにお腹が膨らむ呼吸を作ってください。息は声の燃料です。
ポイント3: 響きを口の奥で作る。 声を前に「飛ばそう」とするのをやめ、開いた喉の奥で音を響かせる意識に切り替えます。響きが奥にできると、声は結果として遠くまで通ります。前に押すのではなく、奥で鳴らす。この順番です。
毎日5分の発声練習メニュー
設定は、読んで理解しただけでは変わりません。発声器官に馴染ませる反復が必要です。The PAST が推奨する発声練習は次の4種です。それぞれ1分程度、合計5分で回せます。
- ハミング ― 唇を閉じたまま「んー」と声を出す。鼻や口の奥に響きを感じることで、声帯が適度に振動する感覚を作ります。響きの位置を知るための練習です。
- リップロール ― 「プルルル」と唇を震わせる。唇や頬の余計な緊張を解きます。力みを取るための練習です。
- タングトリル ― 巻き舌のイメージで舌を震わせる。舌の筋肉をほぐし、鍛えます。rなどの音の準備にもなります。
- ロングトーン ― 一定の高さで「アーー」と長く伸ばす。息のコントロールと声の安定を作ります。息の配分を学ぶための練習です。
注意点は3つです。喉が痛むほど力まないこと(痛みや違和感が出たら休む)。毎日短時間でも続けること(発声器官は反復で馴染みます)。そして自分の声を録音して確認すること。話している最中に自分に聞こえている声は、骨伝導が混ざるため、実際に相手へ届いている声と違います。録音だけが、客観的な答え合わせの手段です。

記事内トレーニング ― 喉を開いて、英文を響かせる
ここまでの内容を、約8分で身体に落とし込みます。題材は、オンライン会議の冒頭挨拶です。明日の会議でそのまま使える英文で、発声の設定を切り替える練習をします。各Practiceの冒頭に「いま何を鍛えているか」を1行で示します。
Practice 1:まず聞く ― 響きに注目する(約1.5分)
鍛える能力:発声の知覚 ― 声の「響きの位置」に注意を向ける。
上の音声を、意味を取ろうとせず、「声の響き」だけに注意して1回聞いてください。母音が長く保たれ、音が途切れずに響き続けることに気づくはずです。もう1回聞き、自分が同じ文を言うときの声を頭の中で並べて、響きの差を感じ取ります。
【English】 Hello, everyone. Thank you for joining today. I’m Ken Sato from the sales team. Before we start, let me share the agenda. First, we’ll go over the results. Then, we’ll talk about our goals for next quarter.
【日本語訳】 皆さん、こんにちは。本日はご参加ありがとうございます。 営業チームの佐藤ケンです。 始める前に、アジェンダを共有させてください。 まず結果を確認し、その後、来四半期の目標について話します。
Practice 2:喉を開いて響きを作る(約2分)
鍛える能力:発声の設定 ― 喉を開き、響きを口の奥に置く。
音声は使いません。身体で設定を作ります。
- あくびを1回してください(演技で構いません)。喉の奥が広がる感覚を覚えておきます。
- 唇を閉じて「んーー」とハミングを5秒×2回。鼻や口の奥がふるえる響きを確認します。
- あくびの喉のまま「アーー」と5秒伸ばす(ロングトーン)×2回。声を前に飛ばそうとせず、口の奥で響かせます。喉が痛む力み方はしないでください。
Practice 3:開いた喉のまま英文を言う(約2.5分)
鍛える能力:発声の適用 ― 開いた喉の設定のまま、英文を1チャンクずつ言う。
Practice 2で作った喉のまま、英文に乗せます。まず、チャンクの区切りを確認してください。
【Chunked】 Hello, everyone. / Thank you / for joining today. I’m Ken Sato / from the sales team. Before we start, / let me share / the agenda. First, / we’ll go over / the results. Then, / we’ll talk about / our goals / for next quarter.
上のリピート用音声は、1チャンク流れたら止まり、反復のための無音(ポーズ)が入ります。1チャンク聞いたら、ポーズの間に同じチャンクを、開いた喉のまま声に出してください。 途中で声がこもったと感じたら、一度あくびの喉に戻してからやり直します。音声に重ねて同時に発声はせず、必ず「聞く→止める→言う」の順で行います。
Practice 4:オーバーラッピングで通す+録音チェック(約2分)
鍛える能力:発声の維持 ― 文が続いても響きと息を切らさない。
仕上げに、スクリプトを見ながら、通常速度の音声にぴったり重ねて同時に音読します(オーバーラッピング)。2回繰り返してください。1チャンクなら保てた響きが、文が続くと切れる。その切れる場所が、息の配分を直すポイントです。
3回目は、スマホの録音をオンにして同じことをします。再生して、モデル音声と自分の声の「響き」を聞き比べてください。こもって聞こえる箇所が、次に直す場所です。
実践例 ― オンライン会議で「声が通る」を作る
作った設定を、実務のどこで使うか。具体的に見ていきます。
オンライン会議 ― マイクに乗るのは音量ではなく響き
オンライン会議で聞き返される人の多くは、音量を疑います。しかしマイクとスピーカーを通ったとき明瞭さを決めるのは、音量よりも響きです。詰まった声は、音量を上げてもマイク越しには平たく届きます。
実務での運用はシンプルです。発言の第一声を、開いた喉で出す。 会議の冒頭挨拶や自己紹介(Practice で使った “Hello, everyone.” がまさにそれです)を、発声設定の切り替えスイッチにしてください。第一声を開いた喉で出せると、その設定のまま話し続けやすくなります。日本語での議論から英語に切り替わる瞬間ほど、この一手が効きます。
発声の次に直す層 ― 音素と韻律へ
発声の設定が安定してきたら、その上の層に進みます。
音素の層では、日本人学習者に共通する癖 ― 母音の足しすぎ・強勢の平板化・似た音の代用 ― を直します。進め方はカタカナ英語の直し方に、独学でどこまで直せるか・矯正の正しい順番は英語発音の矯正に整理してあります。
韻律の層では、文単位の抑揚を作ります。文の種類ごとの上げ下げは英語のイントネーション完全ガイドが該当します。
INTERNAL-LINK: ART-069 公開後(発音練習の全体設計はこちら)
発声→音素→韻律。下の層から積むほど、上の層の練習が軽くなります。この順番が、The PAST が発音指導で使っている積み方です。
まとめ ― 声がこもる問題は「設定の変更」で直せる
最後に、この記事で何が変わったかを整理します。
読む前のあなたは、英語で声がこもる原因を、声質や英語力の不足という漠然とした塊で捉えていたかもしれません。いまは、日本語用の発声設定(閉じた喉・少ない息・前方の響き)を英語に持ち越していることが原因だと説明できます。
そして発音学習を、発声(声を作る)→音素(音を作る)→韻律(文を作る)の3層で捉えられるようになりました。自分の課題がどの層にあるかを言葉にでき、「まず発声から直す」という順番の根拠も持っています。
やることは決まっています。あくびで喉を開く。息をしっかり使う。響きを口の奥に置く。毎日5分の発声練習(ハミング・リップロール・タングトリル・ロングトーン)で設定を馴染ませ、会議の第一声で切り替える。
ただし、一つだけ独学で越えにくい難所があります。Practice 4で体感したとおり、話している最中の自分の声は、実際に相手へ届いている声と違って聞こえるという問題です。
あなたの声の現在地を診断する
発声の設定が正しく変わったかどうかは、自分の耳だけでは判定しにくい。これは努力の問題ではなく、自分の声は骨伝導が混ざって聞こえるという構造の問題です。録音チェックはその対策になりますが、「こもって聞こえる箇所の原因が、喉の開きなのか、息なのか、その上の音素の癖なのか」の切り分けには、聞き分けられる耳が要ります。
The PAST の無料カウンセリングでは、あなたの発声・発音の現在地を診断し、発声→音素→韻律のどの層から直すべきか、順番を一緒に設計します。自己流の録音チェックで迷子になる前に、まず現在地を確認してください。正しい練習の順番は、そこからしか引けません。