―「TOEICで高得点なのに、なぜ英語が話せないの?」
外資系企業やコンサルティング、金融業界などで働く多くのビジネスパーソンが、この疑問に直面しています。TOEICでは高得点を取ったのに、実際の会話になると自信がなくなる——そんな経験はありませんか?実は、ビジネスの現場で求められるのは「読む」「聞く」力だけでなく、「話す」力も重要なのです。
ここで注目されるのが、実践的な英語力を測るVERSANTテスト。TOEICに代わって、多くの企業がこのテストを採用し始めています。
この記事では、VERSANTテストで満点を達成した筆者が、2024年3月に導入された新形式のVERSANTテストについてわかりやすく解説します。また、短期間で目標スコアを達成するための具体的な勉強法や対策もご紹介します。
英語で話す力を本当に身につけたい方は、このガイドをぜひ参考にしてください。最短距離で目標を達成するためのヒントが満載です!
Versant満点(90点)、CEFR C2レベルの英語力を有する。フィリピンの語学学校で10年以上にわたりカリキュラムと教材開発に従事し、述べ5,000人以上の多国籍な英語学習者(日本、中国、台湾、ベトナム、ロシア等)の学習をサポート。言語学と音声学に精通しており、現在は株式会社The Pastの代表取締役、カリキュラム開発者として、グローバルな英語教育を推進している。
新形式のVersantとは?
日経新聞社が運営するVersant公式サイト
世間でいうVersan試験とは、Versant Speaking and Listening Testを指します。世界最大の教育機関であるPearson社が開発したこのテストは、スピーキングとリスニング能力を評価します。スマートフォンやパソコンを使用して、24時間365日いつでも受験可能です。
新形式では、従来のスピーキング力に加えてリスニング力も評価されるため、より実践的な英語力の測定が可能です。テストは約17分で完了し、結果はすぐに確認できます。
企業での活用事例
世界で年間300万回以上受験されており、企業や教育機関で広く利用されています。
日本での知名度はまだ低いものの、外資系企業を中心にインド、アメリカ、フィリピンなどでは非常に有名な試験で、企業の採用プロセスや従業員のトレーニングに活用されています。
以下に、具体的な企業の活用事例を3つ紹介します。
1. 中途採用プロセスでの活用
多国籍企業や外資系企業では、採用プロセスの一環としてVersantテストを導入しています。「TOEIC高得点で採用したが、英語が喋れない」という課題から、TOEICに加えVersantを採用基準にする企業が増えています。特にコンサルティングや金融業界で多く利用され、候補者の英語コミュニケーション能力を迅速かつ客観的に評価できます。
2. グローバル企業の昇進試験
フィリピンに拠点を持つ多国籍企業では、従業員の昇進試験の一部としてVersantテストを取り入れています。マネジメントポジションに就くために必要な英語力を客観的に評価し、適切な人材を昇進させることが可能です。日本でも、JT、セブン-イレブン・ジャパン、楽天などの企業が昇進基準として採用しています。
3. 海外派遣候補者の選定
日本の製造業では、海外派遣候補者の選定にVersantテストを活用しています。現地でのコミュニケーション能力は業務の成功に直結するため、派遣前に候補者の英語力を正確に把握することが重要です。Versantテストにより、実践的な英語力を評価し、適切な人材を選定しています。
Versant新旧比較
Versant Speaking and Listening Test(以下、新形式)は、従来のVersant Speaking Test(以下、旧形式)とは別物のテストと呼んでもいいほど、進化しました。
その違いを具体的に見ていきましょう。
テスト問題の変更
大きな変更は、表示された文章を読み上げる「音読(8問)」、流れてきた3つの語句のブロックを正確に並べ替える「文の構築」がなくなり、TOEICのPart 3,4を口頭で回答するようなパートが挿入された点です。
問題数の減少については、この後の各パートの説明で詳しく解説します。
評価項目
「よりフェアな試験に生まれ変わった。」
Parson社の中でも、テスト制作の中枢にいる方とのお話でこのような言葉を聞きました。
たしかに、新形式は、英語が母語でない英語話者に対してフェアな、より実践的なコミュニケーション力を測れる試験へと進化したと言えます。
旧形式では、発音・流暢さの比重が高く、ある側面では「ネイティブと同じようにオウム返しができるか?」という能力を問われていました。
しかしながら、新形式は発音や文法的な正しさより、相手の話すことを理解し、わかりやすく伝えられるかどうかを測る試験となり、多くのビジネスパーソンにとって、本当に必要な英語力を測る試験となりました。
GSEスケール
旧形式 |
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新形式 |
|
旧形式では、2つのスケールが混在していましたが、新形式ではGSE(Global Scale of English)スケールに統一されました。
2024年8月時点、世間一般でいう「Versantスコア」は、20−80点満点のVersantスケールのことを指しますが、2025年初旬より法人を含む、旧形式の利用ができなくなるため、ここから数年かけ「Versantスコア=GSEスケール」に変わっていくことでしょう。
なぜ、GSEなのか?
「Versant試験なのに、なぜ商品名のVersantスケールではなく、GSEスケールが使われているのか?」
じつは、Versant Testを最初に開発したのはPearson社ではなく、買収された企業(オーディネートコーポレーション社/ハーコートアセスメント社)によるものです。
参照:https://en.wikipedia.org/wiki/Versant
そのため、Pearson社は、既存のVersantスケールから、自社が開発した、より細かく言語技能を測定でき、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)に対応しやすいGSEスケールへの移行を検討しており、この大きな変更のタイミングでついにGSEスケールへと統一したのです。
話者の違い
「TOEICリスニングは満点だけど、Versantは全く聞こえない。」
事実、Pearson社の調査ではTOEIC満点のVersant受験者で平均76%、TOEIC 900点台で平均67%の正答率にとどまります。なにがそこまで難しくさせるのか、その秘密は、ネイティブの使う省エネ発音と、話者の話す速度、背景ノイズにあります。
TOEICや他の英語試験に比べ、Versantの音声は速く、音質が悪いためとても聞き取りづらいのが特徴です。より実生活に近いシチュエーションを想定し意図的にそうなっていた部分があります。
しかしながら、新形式では、問題文の読み上げ速度は旧形式よりはゆるやかに、背景ノイズもなく、ある種聞き取りやすくなりました。
また、話者の国籍もアメリカ国籍の読み手が多かった旧形式に比べ、イギリス訛の音声が大幅に増え、日本人とってより聞き取りやすくなったと言えます。(Pearson社はイギリス、ロンドンに本社をかまえている)
Versantスコアの目標設定
Versantスコアの目標を設定する際には、まず自身の現在の英語力を把握し、目指すべきスコアを明確にすることが重要です。業務やキャリアの目標に合わせて、適切なスコアを設定しましょう。
目標設定方法
求人票にVersantスコアを掲載している企業の多くでは、以下の評価基準を設けている企業が多い印象です。
海外赴任選抜時の足切り | 外資のMgr等、高い英語力が求められる場合 | |
旧形式 | 47(CEFR B1) | 58(CEFR B2) |
新形式 | 43(CEFR B1) | 59(CEFR B2) |
そのため、旧形式の47点にあたる、新形式43点を目標に設定すると良いでしょう。なお、43点(CEFR B1)では、プレゼン後の質疑応答や、テレカンでの発言はまだまだ難しいレベルです。
特に英語ネイティブ圏の方々とビジネスをされる学習者は、数年かけ59(CEFR B2)を目指すことを推奨します。
Versant・GSEのスコア換算
旧形式のVersantスケールでしかスコアをお持ちでない場合、以下のサイトでVersantスコアをGSEスコアへ変換可能です。
https://www.english.com/gsescoreconverter/
また、受験時のTIN番号をお持ちでしたら、Verssant公式サイトにて「Versant」「GSE」両方のスケールでスコアが確認できます。
Versant 各パート解説
ここから本題の各パート解説に入ります。
上記の動画から、新形式の模試をフルで受験できますので、解説を読んだ後にまずは20分で受験してみましょう。
Part A: 質問
音声で出題される質問を聞き、単語や短いフレーズで答えます。
質問は特定の文化や地理、歴史などの知識を前提としていないため、12歳程度の英語母語話者や、英語圏に住んだことがない成人でも理解できる内容になっています。
計測技能:リスニング
問題数:8問
語数:最低3語
旧形式とここが違う:
- 問題数が3分の1(24問→8問)
- 聞き取り安い
Sample Questions:
以下の音声を聞いて、質問に回答しましょう。
Sample Questions:
“What is frozen water called?”
“Does a tree usually have more trunks or branches?”
Part B: 復唱
音声で提示される文を聞き、それを正確に繰り返します。
文の難易度は徐々に上がり、最初は短い文から始まり、次第に長い文へと移行します。
計測技能:リスニング、発音・流暢さ・明瞭さ
問題数:16問
語数:5語から15語
旧形式とここが違う:
- 難易度が段階的に上がる
- 話者はイギリス訛が多い
Sample Sentences:
“You’re taller than he is.”
“He wanted to know if the price included breakfast.”
“They’re trying to fix the problem, but so far, they’ve had no luck.”
Part C: 会話に関する質問[新パート]
TOEICのPart 3に似たパートです。2人の話者による短い会話を聞き、その後に出題される質問に対して単語や短いフレーズで答えます。
計測技能:リスニング
問題数:6問
Sample Conversation and Question:
Speaker 1: “Congratulations on graduating!”
Speaker 2: “Thanks! It was a lot of work.”
Speaker 1: “I know. You deserve a party.”
Question: “Why does that man deserve a party?”
Part D: 文章に関する質問[新パート]
TOEICのPart 4に似たパート。短い文章を聞き、その後に出される質問に答えます。
文章は主に物語形式で、状況やキャラクターに関する質問が含まれます。
計測技能:リスニング
問題数:6問
語数:50語から150語
Sample Passage and Questions:
Passage: “Jason woke up feeling sick. He called his boss and explained that he could not come in to work. Immediately after making the phone call, he took some medicine. A few hours later, Jason no longer felt sick. Rather than waste the afternoon at home, he decided to go to work after all.”
Questions:
“What problem did Jason have when he woke up?”
“What did he do right after calling his boss?”
“What did Jason do that afternoon?”
Part E: ストーリーリテリング (話の要約、言い換え)
短い物語や説明文を聞き、その内容を自分の言葉で要約します。
回答時間は30秒のため、効率的に内容をまとめる必要があります。
計測技能:リスニング、スピーキング(語彙・文章構文、発音・流暢さ・明瞭さ)
問題数:2-3問
回答時間:30秒
旧形式とここが違う:
- 30秒と1分尺の物語があり、要約技能が必須に
Sample Passage:
“Three girls were walking along the edge of a stream when they saw a small bird with its feet buried in the mud. One of the girls approached it, but the small bird flew away. The girl ended up with her own feet covered with mud.”
Part F: 自由回答
意見を求められる質問を聞き、英語の論理の型に沿って、詳細な回答を行います。
問題数:2-3問
回答時間:40秒
旧形式とここが違う:
- 採点対象外から、採点対象に
Sample Questions:
“What are two advantages of communicating by email? What are two disadvantages?”
“Explain two things that you can do to help you learn a new language.”
“Do you prefer reading a book or watching a movie? Explain why.”
おすすめの対策方法と教材
他の試験のようにVersantは公式問題集が発売されていないのが難点です。
しかし、テストの形態と評価基準、語彙、構文の特性などをつかむことで、市販教材等を用いて独学でも一定レベルまでスコアを向上させることができます。
リスニング対策 - 音声知覚
シャドーイング学習はやめましょう。
リスニングが聞こえない理由は様々ですが、TOEICよりも話者の速度が早く、ネイティブの省エネ発音が多分に含まれているVersantでは、聞こえた音を単語に並べ替える「音声知覚」に課題がある方がほとんどです。
英語コーチングスクールや様々な書籍で、シャドーイングが推奨されているため、シャドーイングを練習の中心としてしている方が多いのですが、Versantスコアが伸び悩んでいる方や、TOEICリスニングで満点に満たない方は、ネイティブの使う省エネ発音を十分に再現できるレベルにありません。
求められるのは、守破離の「守」です。ネイティブの省エネ発音、英語がもつ強勢アクセントという言語リズムをゆっくり、ていねいに再現していくことが、遠回りに見えて、最短の道です。
では、具体的な学習方法を見ていきましょう。
教材:
教材選定のポイントは、費用をできる限り抑え、かつ効果が高いものとしました。
必須要素は以下の3点です。
- スクリプト有り
- 再生速度の可変可能
- 1文の語数が15語以内で、専門的過ぎない
この必須項目を満たしている教材は以下となるので、まずは無料の1,2を試すのが良いでしょう。
学習手順:
速度調整可能な上記のような、短い文章を多数掲載された教材を用いて以下の手順で音読学習を行ないます。また、既に学習済みの教材であれば、文章の意味がわかっているため、音だけに集中できるので高い学習効果が期待できます。
- オーバーラッピング 0.5~0.7倍速
- オーバーラッピング 1.0倍速
- オーバーラッピング 1.2倍速
- リッスン&リピート 1.0倍速
オーバーラッピングとは、英語のリズムやイントネーションの体得を目的とした音読学習で、スクリプトを見ながら、流れる英語の音声と同時に発声を行うことです。
ポイントは、チャンク(語句の塊ごとに)ごとに練習していくことです。
例として、”He wanted to know if the price included breakfast.”の場合、
He wan(t)ed to know … He wan(t)ed to know … He wan(t)ed to know …
He wan(t)ed to know if the price included … He wan(t)ed to know if the price included … He wan(t)ed to know if the price included
He wan(t)ed to know if the price included brea(k)fast … He wan(t)ed to know if the price included brea(k)fast … He wan(t)ed to know if the price included brea(k)fast
のように、小さいチャンクからはじめて、じょじょに塊を広げていきましょう。
リスニング対策 - 要約技能
より実践的かつ、高度な要約技能が求められる新形式ではノートテイキングの練習が効果的です。
小西 麻亜耶さんの「10秒リスニング」は、この能力を向上させるのにうってつけです。
本書の構成がいかに優れた構成であるかを説明すると記事1本くらいの文量となりますので、Part Eストーリーリテリングの対策はもちろん、英語のテレカンや、英語ニュースの聞き取りに課題を
感じている方に大変おすすめです。
スピーキング対策
Vernsantにおけるスピーキングは、「何を話したか?」にあたる、語彙・文章構文と、「どのように話したか?」の発音・流暢さ・明瞭さに分けられます。
後者の流暢さは、前述のリスニング対策で鍛えることができます。
しかしながら、音素(最小単位の音)のエラーは、自身で誤りに気付けないため、他者もしくは、AIを用いて学習すると良いでしょう。
ELSA speak
無料で使える発音矯正アプリ、「ELSA speak」は独学で正しい音素を習得するのにおすすめです。
ただし、精度にはまだ成長課題があり、ネイティブのように音をつなげたり、脱落させたりするとスコアが低く出る場合もあるため、発音記号をすべて正しい音で発音できる状態を作ることを目的に始めると良いでしょう。
レアジョブ(発音矯正)
最近ではオンライン英会話でも発音矯正ができるサービスが増えてきています。
教材という観点でみると、レアジョブの発音レッスン全20回が、学習者のよくある間違いまで網羅できているため、お勧めです。
講師がどこまで誤りに気づけるか?という点では、講師によりややバラツキがあるため、ELSAの補助やアプリ学習では集中力が続かない方などはこちらを利用すると良いでしょう。
CAMBLY
「田舎と都会、どちらが好き?」といったPart Fの自由回答対策には、オンライン英会話サービスCAMBLYの「TOEIC対策:スピーキング」を利用することで、手頃な価格でネイティブスピーカーとの練習が可能です。
また、英語の前に日本語でも即座に答えや理由が思い浮かばない方は、ブレインストーミングの練習が不足しているかもしれません。まずは母語で瞬時に結論、理由・具体例、結論をまとめられる状態を目指しましょう。詳細は、以下の記事でご確認ください。
さらに、ChatGPTを上手に活用して指示文を作成すると、オンライン英会話以上に的確なフィードバックを日本語と英語の両方で得ることができる場合もあります。
この点については、今後の記事で詳しく紹介していきます。
まとめ
今後、英語の読み書きのスキルは、テクノロジーの進化に伴い、必要性が減少するかもしれませんが、リアルタイムでの会話やコミュニケーションスキルは依然として重要です。AIや翻訳ツールが文章のサポートをしてくれる一方で、対面でのやり取りや瞬時の反応力、感情やニュアンスを伝える力は今後も求められるでしょう。
そのため、効率的な学習方法と適切な指標を選ぶことが大切です。Versantテストは短時間でリスニングとスピーキングの力を評価でき、実践的なコミュニケーション力を測る手段として役立ちます。
これを活用することで、自分の弱点を把握し、効果的にスキルを強化することができます。
この記事が、皆さんの英語学習の一助となりますように。